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民医連新聞

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相談室日誌 連載343 無低診をきっかけに 生活をたて直した夫婦 菱刈ゆい(神奈川)

 それは一本の電話から始まりました。
 「夫の体調が悪く、受診したいがお金がない。いろんな病院に電話をして相談したけれど、どこも断られてしまって…」。妻からの電話でした。話を聞くと夫 の症状は糖尿病のようで、その日のうちに来院してもらいました。
 夫のAさんは四五歳、専門学校を卒業して自動車部品の会社に勤めていました。健康診断でも糖尿病を指摘され、勤めては体調が悪くなり退職、を繰り返して いました。妻が勤めていた会社も倒産。新しい仕事に就き、生活が厳しい中でも年老いた母親に仕送りもしていました。
 Aさんの視力は低下し、SWの顔もぼんやりとしか認識できませんでした。足の傷もなかなか治らず、病院に来るのが精一杯の状態。入院を勧めても、「今日は帰ります」と、入院日だけを決めて帰りました。
 区役所に、Aさんには入院など継続した治療の必要性があること、現状の生活費がほとんどないことを連絡。妻が生活保護を申請し、入院日の翌日から医療費 と住宅扶助が出ることになりました。SWはAさんと妻には外来分と入院一日分は無低診の適用にすること、入院費も保護費で対応できることを説明しました。
 妻は「生活が苦しく、夫を受診させられず苦しかった」と泣きました。Aさんも医療費の心配がなくなり「治療に専念できる」と、ほっとした表情でした。現 在は当院に通院中で体重も増え、受診時に会うと笑顔をみせてくれます。
 今回は一本の電話から援助につながりました。最近は、体調不良で仕事が続かず転職を繰り返してさらに症状を悪化させたり、経済的問題で受診できずにいるAさんのような人が増えています。
 Aさん夫婦は制度を利用して、楽ではないものの以前より生活は安定しました。無料低額診療事業は受診のきっかけにすぎず、そこから患者さんや家族の生活全体の援助が始まります。
 面接するたび泣いていた妻が、退院日にみせた笑顔はとても印象に残っています。これからも患者さんの不安を軽減し、前向きに生きていけるよう寄り添っていきたいです。

(民医連新聞 第1560号 2013年11月18日)