みんいれん60周年〈共同組織〉 地域づくり健康づくりに「参加と協同」つらぬいて 2・5軒に1軒が仲間 医療生協さいたま 秩父生協病院
六〇周年シリーズ―、今回は「共同組織」。民医連は、医療に恵まれない過疎地や離島にも事業所を開き、住民と共に歩んできまし た。埼玉県の山間部にある秩父地域では、住民からの求めで五八年前に秩父中央診療所を開設。往診や夜間診療、労災の救済などに尽力し、秩父生協病院に発展 しました。現在、HPH(健康増進活動拠点病院)として、医療生協組合員や他の医療機関、行政と連携し、地域づくり健康づくりにとりくんでいます。(丸山 聡子記者)
「一、二、三、四…」。体育館に元気な声が響きます。昨年から秩父生協病院が三カ所でとりくんでいる「燃やせ体脂肪教室」。毎回体重や体脂肪を測定し、各自が目標を持っています。
「きついけど、知り合いが増えて楽しいし、一年半続いています」と話すのは森みつ江さん。医療生協の組合員になり、組合員ニュースの配達もしています。
組合員数は一万三三八九軒。「秩父地域の全世帯数の四割超。私たちの宝です」と事務長の長濱共子さん。八割超の組合員に毎月ニュースを手配りし、高齢者が孤立しないよう目を配っています。
すすむ高齢化、役割探り
深い山に囲まれた秩父地方は、他地域との交流が少なく、独自の文化を築いてきました。高齢化率は二七・九%。埼玉県の二〇・四%をはるかに超えます。医療・介護の連携・充実については、早くから地域全体で議論してきました。
地域連携の転機となったのは、二〇〇七年に同院の呼びかけで開いた「秩父の医療と介護を考えるシンポジウム」でした。救急拠点病院の院長や特養ホーム所 長、行政関係者もシンポジストとなり、地域にある全ての医療・介護事業所から二五〇人が参加しました。
二〇〇九年、「安心して住み続けられる地域に」と当時、近隣に一つもなかった回復期リハビリテーション病棟を導入。同じ頃、秩父市と近隣四自治体が定住 自立圏形成協定を結び、同院も参加する「ちちぶ医療協議会」が発足。リハビリ分科会の会長に山田昌樹院長が、委員に菅原久美子総看護長が選出されました。 MSWや薬剤師、リハビリ、訪問介護など、地域内の職種間連携も活発になっています。「これをさらに発展させよう」と今年五月、HPH(Health promoting hospitals and services)に登録しました。
組合員たちが積極的に
秩父地域の死亡原因のトップは脳血管障害。男性で全国平均の一・五七倍、女性でも一・二九倍の高さです。味の濃い煮物、漬物、魚の干物などを食べている人が多く、塩分摂取量は全国平均の一・三倍です。
そこで「地域丸ごと健康づくり」を掲げ、HPHを意識してとりくみ始めたのが、(1)ロコモティブシンドロームの予防、(2)栄養・サルコペニア(筋肉 減少症)予防と減塩、(3)口腔ケアの実施と学習、(4)認知症予防と学習、の四点です。
地域の食に即した「あいうえお塩分表」作成や、外出が難しい人でも自宅でできる「ちちぶお茶のみ体操(通称・茶トレ)」(山田院長監修)の開発・普及、 歯科開業医と連携した口腔ケア学習会など地域全体に広げています。
「長年入れ歯のケアをしていなかった高齢者に口腔ケアを行うと、背筋が伸びて筋力アップし、会話も活発に。体操や料理教室にもとりくんでいます」と長濱 さん。理事の堀口久美子さんは、「長年保健活動にとりくんでおり、組合員さんは健康への意欲が高い。運動のインストラクターになってウオーキング指導に出 向いたり、食のアドバイザーや認知症サポーターになる組合員さんも増えてきました。自治体からも注目されているんですよ」と話します。
レントゲン機材かついで
秩父生協病院の前身、秩父中央診療所が誕生したのは一九五五年。当時は医療は住民に遠い存 在で、医者は「死亡診断書を書くとき」だけ。秩父の住民有志の「秩父地域に民主的医療機関を」との要請にこたえ、当時二八歳の高橋昭雄医師を所長に、事務 長と看護婦、事務各一人でスタートしました。土地を貸してもらえないなど、地元の反発もあったと言います。
そんな中でも「患家は病室、そこまでの道は廊下」を信条に往診や夜間診療にとりくみ、六一年には地域の健康診断活動を開始。車も入れない山間部に、レン トゲンなどの機材を持って通う姿に、次第に信頼が広がっていきました。
組織責任者で四〇年勤める深田澄子さんは「七〇年代でも検査機器を備えた内科は少なく、頼りにされた。主要産業のセメント工場で頻発した振動病やじん肺 の診断・治療をし、労災認定を求め患者さんと一緒にたたかったのも生協病院でした」と振り返ります。
組織部の渋谷和彦さんは言います。「初代の高橋先生はいつも『参加と協同』と強調していました。地域づくりは、職員だけではできない。組合員さんの中に は民生委員や自治会役員をしている人も多く、力強い存在。二人三脚で地域との結びつきを強め、住み続けられる秩父地域をつくりたい」。
(民医連新聞 第1560号 2013年11月18日)