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民医連新聞

民医連新聞

中国・ハルビンでの日本軍遺棄毒ガス兵器 被害者検診と“医の倫理” ランチョンセミナー

 一日目の昼食休憩時に開催したランチョンセミナーでは、日本軍遺棄毒ガス兵器被害者への海を越えた支援を取り上げました。
 二〇〇五年から民医連の医師らが関わり始めたこのとりくみが、多くの職員の前で紹介されるのは、今回初めてです。全日本民医連副会長の吉中丈志医師、東 京・芝病院の藤井正實医師、京都民医連第二中央病院の磯野理医師、東京健和会臨床看護研究所の宮城恵里子看護師が報告しました。

「民医連ならできる」と

 最初から関わってきた藤井医師が経緯を語りました。遺棄毒ガスに曝露した中国の被害者を支 援していた弁護団に、診断の相談を持ちかけられたのがきっかけ。毒ガス被害、しかも国外の事例で、困難は予想されましたが「『無差別・平等』の民医連医療 は、国内に限ったものではない」と協力を決意。各分野の専門家の協力が必要ですが、民医連なら可能と考えました。
 〇五年、東京に被害者を呼び、初めて検診を行った翌年、現地ハルビン市へ。来日できなかった被害者たちはやはり重症でした。
 また、被害者たちは自律神経障害をはじめとした神経系の異常に苦しんでおり、呼吸器や皮膚症状など一般に毒ガス被害とされてきたものと異なっていることも判明しました。

学業も仕事も困難

 神経内科医らが参加した〇八年以降の検診報告は、磯野医師が行いました。
 検査の結果、被害者には重度の自律神経障害が認められ、著しい記憶障害や高次脳機能障害で、就学や就業など社会生活さえ困難になっていると判明。
 一二、一三年の第四、五回の検診は、中国の医師団も参加する合同検診へとすすみました。被害者たちの自律神経症状(頻尿、多汗など)は軽減傾向ですが、 高次脳機能障害は高度で持続。マスタードガスに含まれる発がん物質によるとみられる肝細胞がんの死亡が一人。脂質異常症が悪化し血管障害の発症が増え、一 人死亡。磯野医師は「日中の医師が共同で被害者の治療や援助を継続すること」を今後の課題に挙げました。

二度と起こさぬため

 宮城さんは、被害者の検診と遺棄毒ガス事件を知らせる活動をおこなう支援組織「化学兵器 CAREみらい基金」への協力を呼びかけ。民医連職員として事件について触れ、なぜこのような事件が起きたのか、事実を知ることや、苦しむ被害者に何がで きるか、医療人として、人として考え、必要な支援をすること、二度と戦争を起こさない努力として日本国憲法を守ることが大切、と語りました。

反省ない加害国こそ

 吉中医師は、第二次世界大戦で日本の医師が関わった七三一部隊などの非人道的行為と戦争責任を明らかにすべく〇九年に結成された「戦争と医の倫理」の検証を進める会の常任世話人。
 日本の医学会が戦争犯罪への反省や検証を行っていない事実に触れ、毒ガス被害者の支援活動が「日中両国民と世界の平和と友好に貢献する」と語りました。

* * *

 記念講演した高橋哲哉さん(東京大学教授)からも「すばらしい活動」とコメントが。「国境 を越えた医療支援を加害国の医療者が行っていることにも意味がある。日中関係が悪化する中、『この手の話は聞きたくない』という声も増えているが、そんな 時代だからこそ貴重なとりくみです」と、激励しました。
(木下直子記者)


 遺棄毒ガス事件とは…旧日本軍が敗戦時、中国に埋設、遺棄した毒ガス兵器(七〇~二〇〇万発)に、工事や農作業で触れた住民や労働者が健康被害を起こしている事件。被害者には治療や生活の保障はなく、日本政府を訴えたが、政府の責任を問う判決は出なかった。

集会参加者の声

脊戸(せと)麻里さん(北海道・薬剤師)…褥瘡にストッキングを使うなど考えたこともない実践や役立つ報告があった。外の話を聞く機会はそうないので、勉強できました。
津川信彦さん(青森・医師)…学運交は診療のヒントの山。特に若い医師に参加してほしいです。
工藤鉄明さん(栃木・医学対)…診療所の分科会に出て地域医療を担う後継者養成の大切さを実感。
長澤健一さん(長野・介護福祉士)…学運交は初参加。利用者の性行動について聞き取り調査し、ポスターセッションで発表しました。
熊田肇さん(和歌山・研修医)…診療所の医師を目指しているので地域包括の分科会に参加。身よりのない高齢者など、今の制度が追いついていない問題を痛感。
永里恵利子さん(鹿児島・看護師)…糖尿病のフットケアや栄養指導チームなどの報告が参考になった。忙しくても他職種と連携し患者さんと向き合う模索をしたい。
玉城和美さん(沖縄・助産師)…若年や未婚、未受診などハイリスク妊婦を受け入れています。虐待も多く、一病院では限界。地域で行う性教育の報告などが参考になりました。語り合う場を作りたい。

(民医連新聞 第1558号 2013年10月21日)