相談室日誌 連載341 生活保護バッシングが受療権を奪う 濱 陽子(熊本)
Aさん(八〇代)は数年前に脳出血を発症し、ほぼ寝たきりの状態。年金は月約四万円で同居中の家族の収入も不安定で、当院以外の医療機関にも未払いがあるという状態でした。
介護保険料も長期滞納し、ペナルティーとして利用料は三割負担。利用料が払えないため、最低限必要な介護サービスも受けられませんでした。Aさんは肺炎 などで入退院を繰り返し、医療費の未払いが増えていくという事態に。
院内でカンファレンスを重ねた結果、無料低額診療制度を適用し入院費を減免。退院後は生活保護を受給して有料老人ホームに入所し、必要な介護が受けられるようにしました。
しばらくは入院することもなく、施設で生活していたAさんでしたが、半年後には経口摂取ができなくなり、家族と話し合った結果、胃ろうをつくることに。 胃ろう管理と一日数回の痰吸引が必要になりました。しかし入所していた施設では、胃ろうのある利用者を受け入れないため退所することに。退院先を探しまし たが、有料老人ホームなどでは、「看護師がいない」「入居費用が払えない」などの理由でなかなか見つかりませんでした。
転院も検討しましたが、痰吸引が一日数回では医療区分1となり、医療療養型の長期入院の対象にもなりません。介護療養型は空きがない状況で、やっと調整 できたのは介護療養型もあるケアミックスの病院でした。しかし一般病床で受け入れて、もし介護療養病床が空かないようであれば、別の施設などを検討すると いうことでした。
働いている家族がいても低収入で、年金を生活費に充てるために、医療や介護費用が払えない世帯が当院では目立ってきました。
国は「地域包括ケア」と言いますが、現場ではマンパワーも足りず、低所得者への対策も不十分です。Aさんは、住み慣れた家では生活できず、知らない施設 に移り、その施設にも帰れず、病院にも長く入院できず、ここ数年のうちに本人の意思に関係なく、居所を転々とする生活となりました。本人はこのことをどの ように受け止められているのでしょうか。
(民医連新聞 第1558号 2013年10月21日)