社会保障制度改革 推進法はどこまで来たか (5)少子化対策・年金 “安上がり”の保育環境整備 老後が安心できない年金改革
社会保障制度改革推進法の具体化の中身は? 連載最終回は少子化対策と年金分野についてみていきます。少子化対策は、保育の市場 化と公的責任を縮小する子ども・子育て支援新制度の「着実な実施」が、年金分野では給付額の引き下げと支給開始年齢の引き上げが打ち出されています。
■保育時間で全額自費も
推進法の「目玉」とされる少子化対策ですが、その問題点は最終報告書が拠り所としている子ども・子育て支援新制度(二〇一五年四月実施予定)の具体化議論から、明らかになりつつあります。
新制度では、施設に対して行政が補助金を出す現行の「施設補助方式」が、「利用者補助方式」に転換されます。これに伴い、保育所利用には介護保険利用者 のように「保育の必要量」の認定を受ける必要が発生したり、親の勤務時間によって保育時間を長時間か短時間かに区分されます。保育時間が認定の必要量を超 えた場合は、全額自費になります。
また、低水準の施設での保育事業も認められることに。小規模保育所では「保育士資格を持つ職員は半数で可」との基準案も厚労省から出ています。これでは乳幼児の発達保障はおろか、安全も守れません。
待機児童対策は、一七年度までの五年間で六〇万人分の保育施設をつくるという「待機児童解消加速化プラン」が出されました。ところがこれは、営利企業を 参入させ、基準を緩和して劣悪な環境での保育を認めるなど、安上がりな整備です。「これでは少子化に歯止めはかからず、ますます悪化する」と、関係者は指 摘します。
■年金給付額を引き下げ
最終報告書は年金について、「マクロ経済スライドや支給開始年齢の在り方」を検討すべき課題としてあげました。
【給付額引き下げ】…年金給付額は昨年の法改正で、すでに今月から一%、三年で二・五%削減すると決まっています。そこにマクロ経済スライドの見直しが提案されました。
マクロ経済スライドとは、物価の上昇額率から少子高齢化による影響率を差し引いて年金給付額を改定するもので、〇四年から導入されています。ただ、物価 が下落しているデフレ時は実施しないルールのため、一度も発動されていません。それをデフレでも行えるようにし、毎年支給額を削減しようというのです(図)。この場合、支給額は物価下落分からさらに約一%の引き下げに。なお、高齢期の生活保障をめぐる深刻な問題※には、触れていません。
【支給開始年齢の引き上げ】…現在、国民年金の支給開始年齢は原則六五歳、厚生年金は六〇歳から六五歳へ段階的な引 き上げがされているところです。これをさらに引き上げる検討を「速やかに開始する必要がある」としました。 高齢者の生活が年々苦しくなるとともに、若い 世代にとっても将来受ける年金額が激減する大改悪です。(木下直子記者)
※年金受給額が月四万円以下の人は五〇〇万人にのぼります。女性の年金受給者の三二%が年間 五〇万円以下で、年金生活世帯の四世帯に一世帯が貧困世帯。無年金者は一〇〇万人(厚労省調べ)です。低年金・無年金の問題は、生活保護世帯の約半数を六 五歳以上の高齢世帯が占める要因にもなっています。
(民医連新聞 第1557号 2013年10月7日)