相談室日誌 連載340 生活保護バッシングが受療権を奪う 岩崎裕美(三重)
ある日、外来から「Aさん(五〇代・女性)が、検査で悪性が疑われる巨大腫瘍が見つかった。治療が必要だが経済的に困っているようだ」と、相談の依頼が入りました。Aさんは不安げで戸惑っている様子でした。
後日、Aさんは面談のために来院。面談室に入るなり、「この前ちゃんと先生にも言えば良かったんですけど、検査も入院もする気はありません」ときっぱり話しました。
Aさんは一人暮らしで家族とも連絡をとっていないこと、友人もなく今までひとりでがんばって生きてきたことを話しました。そして「入院でもしたら仕事を クビになるかもしれない。クビになったら生活していけない、今はどこも痛くないから検査も必要ない」と訴えました。
状況を聞き取った限りでは、Aさんの収入は生活保護基準以下だと判断できました。Aさんの気持ちを受け止めながら、治療が最優先であることと、生活保護 制度について説明。しかしAさんからは、生活保護バッシング報道の影響なのか「自分が保護を受けるなんて考えられない」と拒否し、話も平行線をたどりまし た。
その後、外来師長とともに自宅訪問や手紙を送るなど働きかけていますが、今のところAさんの心の変化はみられていません。
Aさんは“体が動くからまだ働ける”と必死に自分を納得させているように感じました。生活保護を受けることは権利ですが、Aさんのように申請を躊躇 (ちゅうちょ)する患者さんは少なくありません。生活保護に関する誤った報道、それによる社会からの偏見が、必死に生きる人たちの申請のハードルをさらに 上げている実態に憤りを感じます。
八月から生活保護基準が引き下げられました。これに対し各地で不服申し立てが行われています。これが前例のない規模となったのは、今回の引き下げが国民 の暮らしを全く無視したものであることを物語っていると思います。
生活保護に対する偏見も、基準の引き下げも、黙っていたら、いつしかそれが当たり前になってしまう。やはり、一つ一つ声をあげていくことが大切なのだと改めて感じています。
(民医連新聞 第1557号 2013年10月7日)
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