社会保障制度改革 推進法はどこまで来たか (3)医療分野 患者負担増と受診抑制 「安上がり」追求
社会保障制度改革国民会議の「最終報告書」には、前回紹介した通り給付抑制と負担増が並びました。分野ごとに少し詳しく見ていき ます。今回は医療。なお、最終報告書の具体化の手順を定めたプログラム法骨子が、八月二一日に閣議決定されました。これによれば、来年度以降の通常国会で 改悪法案が続々出されます。
■前期高齢者を2割負担に
七〇~七四歳の窓口負担割合(現在は一割)を、新たに七〇歳になる人から二割に上げていく 提案がされています。二割負担は、後期高齢者医療制度導入の際に決まっていましたが、国民の批判を受けて実施が凍結中であるため、法改正の必要はなく予算 措置で実施できます。反発を恐れ二〇一四年四月以降、七〇歳になる人を順次、引き上げていく計画です。
二割負担になれば、七〇~七四歳の患者には年二〇〇〇億円の負担増。複数科を受診する患者は月平均一万円超に。病人の三割近くが受診できなくなるとの推定も。
高齢者の負担割合が低いのは、受診率の高さ(図)に配慮しているためです。負担増のために受診をがまんし、重症化してから医療機関に担ぎ込まれる高齢者が増えれば、結果的に医療費がかさむ“逆効果”になりかねません。
入院給食の自己負担引き上げも検討されています。「在宅療養中の患者との負担の公平をはかる」との理由ですが、入院日数を削減しようという狙いが露骨です。
患者が医療機関を自由に選んで受診できる現在の「フリーアクセス」制も制限。紹介状なしで二〇〇床以上の病院を受診した患者には定額負担を課すことや、 一般的な受診はかかりつけ医に相談することを基本にする「ゲートキーパー制」の導入も打ち出しました。
■国保、医療供給体制
国民健康保険の運営を、市町村から都道府県に移す提案もされました。プログラム法によれば法案提出は二〇一五年度の通常国会。
保険料徴収など保険者機能の一部は引き続き市町村で担う方向ですが、国保に対する一般会計からの繰り入れや、公費負担の削減が狙い。国保料(税)の大幅な 値上げが心配されます。減免制度や減免基準の統一、保険料徴収や滞納者への制裁措置が機械的に行われる恐れもあります。
「国保は社会保障。これを都道府県単位にすることは、国がその責任を放棄することです。払った保険料の『見返り』としての給付に押さえ込む狙いがあります」と、全日本民医連の相野谷安孝理事は指摘します。
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最終報告書は「『病院完結型』から『地域完結型』へ」とのかけ声で、医療供給体制の見直し も求めました。医療現場の疲弊には触れましたが、打開の方向性は、増員ではなく「機能分化」です。病床機能の情報を都道府県に報告する制度を創設し、都道 府県主導で機能分化を進めるとしています。多くの人員配置が必要な急性期病床を減らし、患者をより「安上がり」ですむ在宅へと追いやることになります。
医療供給体制の見直しに関する法案は来年度の通常国会に提出、診療報酬改定とあわせ二〇一七年度までに順次実施する予定です。(木下直子記者)
(民医連新聞 第1555号 2013年9月2日)
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