気になる患者さん みんなでささえる 事例検討と綱領で職場が元気に 石川・寺井グループ
職種間の連携が足りずにトラブル続き…。そんな悩みを抱えていた職場が、元気になりました。秘密は全職員での事例検討会と民医連 綱領の振り返り。いまではフットワーク軽く地域に出るようになりました。病院や在宅、老健、小規模多機能施設などを擁する石川勤医協・寺井グループを訪ね ました。(丸山聡子記者)
同グループが定例で開いている事例検討会。各部署持ち回りで報告し、一事例に一時間かけます。取材した日は寺井病院に長年通院する四〇代患者のことをとりあげました。家庭内暴力があることや、病院でも大声を出すことが問題になっていました。
「精神科にかかった方がいいのでは? フォローしきれるのか不安」。長年関わってきた職員が、苦しい胸の内を明かします。「私たちが他の福祉への出入り 口の役割を果たせるのではないか」と、主治医も意見を出します。
検討会の終わりには、その回の事例が民医連綱領のどの部分の実践にあたるかを確認。この日は「人権を尊重し、共同のいとなみとしての医療と介護・福祉を すすめ、人びとのいのちと健康を守ります」の部分、とまとめました。
バラバラだった職場
事例検討会は二〇一〇年から始めました。複数の部署が関わる患者の情報が共有されず、バラバラの動きをしていた院内の状況を、改善しようというねらいでした。民医連で働く自分たちの医療活動を足元から見直そうと、新綱領の学習も意識しました。
「予想外の意見や結論が出ることもある」と、教育委員の大野千賀さん(検査技師)。検討会を重ねるにつれ、職場に変化が。「気になる患者さんがいれば、 他部署に様子を聞けるようになりました」と、同じく教育委員の広長絵理さん(事務)。
また以前は、病棟と訪問看護の連携がなく、退院後の患者さんの様子が病棟では分かりませんでした。看護師の源美恵さんは、「自宅に帰して良いのか悩んだ 患者さんが、訪問看護師から『家族に囲まれて亡くなった』と聞けて、安心できました」と話します。外来看護師の竹崎珠美さんも「患者さんの背景まで聞く余 裕がなかったり、二の足を踏んだり…。今なら、みんなで考えて踏み出せる」と。
年度末には「これが私たちの綱領実践!」と題して一年間の活動を発表。「綱領の理想は高いけど、これがあるから、近づこうとがんばれる」と竹崎さん。
人間らしい生活あきらめない
Aさん(七〇代、男性)は一五年以上通院しています。いつも同じボロボロの服装と悪臭が気になる患者でしたが、本人の頑なな態度に誰も関わっていませんでした。
二〇一一年六月、診察した医師が「こんな状態を放っておいてはいけない」と提起。福祉送迎を行うNPO「安心らくらく」の運転手からも「家もひどい状態」と連絡が入りました。
ケアマネの大浦章子さんが、受診のため来院していたAさんに声をかけました。聞けば、二年間入浴しておらず、頭皮はバリバリ。
Aさんは最初は大浦さんを警戒しましたが、二カ月後に介護保険を申請し要支援2に。「困っていない」と言っていたAさんですが、介護保険パンフにあった 「散髪」サービスに興味を示したため、すぐ訪問。髪を洗い散髪しました。自宅はトタンが破れ、ドアが壊れかけた取り壊し間近の市営住宅でした。その後、週 一回の訪問介護を開始。「何もするな」と言われながらも毎週一時間訪問し、次第に「帰れ」と言われなくなりました。いまAさんは新しい市営住宅に越し、娘 と暮らしています。訪問介護と看護、往診、薬剤師の訪問、福祉用具の業者がささえています。
支援の中で、市の地域包括支援センターから「本人がいらないと言う訪問をなぜ?」と不思議がられたことも。「人間としてこんな状態ではいけない。本人も 気付いていないニーズがあるのではと思った」と大浦さんは振り返ります。
最近のAさんは穏やかになり、訪問を待っているような様子も。大浦さんは「人権を守るという民医連の精神と同じ志の仲間がいるからささえられる」と語ります。
活動の「軸」は綱領
悪臭に気付きながら、これまで踏み込んでこなかった医事課の井上緑さんは、「身ぎれいに なったAさんを見て、多くの目で患者さんを多角的にとらえ、その人全体をささえることの大切さを痛感した」と話します。医事課の訪問は未収金対策が中心で したが、今では「この患者さん、気になるね」の一言ですぐ訪問するように。「綱領は自分たちの活動の軸になっていると思う」と井上さん。
教育委員会の中心メンバーの信耕久美子さん(SW、事務局次長)は、「受け身だった職員が、綱領を力に生き生きしてきた。“ささえきる”がモットー」と 話します。今年度のグループのスローガンは「新たな笑顔とつながろう。地域に出ていく寺井グループ」。
(民医連新聞 第1555号 2013年9月2日)