副作用モニター情報 400回全国の力で 独自に安全性を検証
本紙六面で連載中の「副作用モニター情報」が四〇〇回を迎えました。スタートは一九九二年一〇月。全国の事業所から寄せられる “生の声”を元に、副作用のリアルな情報を届けてきました。民間医療団体として独自に確立した「副作用モニター」が果たしてきた役割を、振り返ります。 (丸山聡子記者)
“薬の二面性”を解明
全国の民医連の保険薬局、診療所、病院などから全日本民医連の副作用モニターに寄せられる情報は、年間二〇〇〇~三〇〇〇件。現場発の副作用情報を独自に収集・分析・評価する仕組みは、民医連ならではのものです。
全日本民医連が第一回薬剤問題検討会(二〇県連、一〇二人が参加)を開いたのは一九六五年。薬には「治療の効果」とともに「利潤を生み出す商品」として の面があるという“二面性”を明らかにしました。安全性の軽視や危険情報の隠ぺいが起きやすいため、薬を厳しく見る視点が必要です。
七七年に「患者に二度と同じ副作用を起こさない」と、民医連副作用モニター制度を発足。九二年、より迅速に情報を届け、臨床で活用してもらおうと、民医連新聞での連載が始まりました。
現場発、全国の情報が力に
全日本民医連副作用モニター委員を長年務めた立岡雅子さん(東京・ひかわ調剤薬局)は八六年、国内では問題になっていなかったカプトリル(抗高血圧薬)による咳の副作用を明らかにしました。
きっかけは民医連医師からの一本の電話でした。「カプトリルをやめたら咳が止まったという患者さんがいる」。改めて薬剤の添付文書を見ると確かに記載 が。欧州で症例が多いものの、国内では報告が少なかったのです。調べてみると、その年の副作用モニターに同様の報告が五件ありました。医師に連絡し、カプ トリル服用の患者さんについて検討すると、一八件のうち七件で副作用が判明しました。「長年苦しんでいた咳が治った。ありがとう」との患者さんの言葉が、 立岡さんの原点です。
「軽微な副作用でも患者さんには長年の苦しみ。一事業所では一例しかなく、副作用だと気付かなかったかもしれませんが、全国の情報があったから気付け た」と立岡さん。集団的に咳の集中モニターを行い、カプトリルと系統が同じ高血圧の薬に咳の発生頻度が高い(一七・四%)ことを突き止め、学会に報告した り、添付文書に記載させた例も。今では製薬メーカーからも注目されています。
今年二月に行われた医薬品情報専門薬剤師認定のための講義(日本医薬品情報学会主催)では、当モニター情報の三六九回と三七〇回に連載した「プラザキサの副作用」が取り上げられ、自組織による副作用収集・検討・評価と情報発信が評価されました。
現代に引き継ぎたいもの
制度発足当時に比べ、情報収集はインターネットなどで容易にできるようになりました。そんな時代だからこそ、「患者さんに寄り添い、話に耳を傾けることが大事」と立岡さんは強調します。
「薬は人体にとっては“異物”。それを、人が生きていくために“必要なもの”にするには、現場の医療従事者が患者の症状を拾うアンテナを持つ必要があります。薬を公正に見る目を養い、副作用モニター情報を大いに活用し、患者さんに役立ててほしい」。
副作用モニターができるまで
副作用モニター情報が皆さんに届くまでを、全日本民医連医薬品評価委員の武井昭二さん(東京・地域保健企画)に聞きました。
副作用モニター情報は、現場からの地道な報告と検討の積み重ねで成り立っています(図)。
これだけの労力を注いでいるのは、「過去に薬害を防げなかった経験を、二度と繰り返したくない」との思いからです。副作用を収集・報告する現場の皆さんの作業は大変で、頭が下がります。
厚生労働省や製剤メーカーもそれぞれ副作用情報を収集していますが、厚労省は新薬採用と重篤な副作用が出たときが中心ですし、製薬メーカーは、都合の悪い情報はなかなか出しません。
患者さんと日常的に接し、非営利の全国組織である民医連のモニター情報は貴重です。これからも改善を図りながら、現場で活用できる「副作用モニター情報」として継続していきたいです。
(民医連新聞 第1554号 2013年8月19日)