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民医連新聞

民医連新聞

“安全文化”は日々の積み重ね チーム全体での協同を

 民医連では、日常的にチームで医療・介護を提供しています。安心・安全な医療と介護を実現するには、どうしたらいいのか―。全日 本民医連では、全国の経験を交流し、スキルアップを図ってきました。第六回医療安全交流集会(二〇一三年三月)から、チームトレーニング演習と、テーマ別 セッションの感染管理、暴言・暴力の問題を中心に報告します。

第6回医療安全交流集会 チームトレーニング演習も

 全体会では、三〇〇人全員でチームトレーニング演習を行いました。「業務の効率的かつ安全 な遂行には、専門的な知識や技術とともに、チームとして機能するための能力、トレーニングが必要」との狙いから、種田憲一郎さん(国立保健医療科学院上席 主任研究官)が、チームトレーニング法の「チームSTEPPS(ステップス)」について講演。チームSTEPPSとは、医療の質・患者安全向上のためのシ ステムであると紹介しました。
 種田さんは、白シャツの三人と黒シャツの三人がそれぞれボールをパスしている映像を参加者に見せ、白チームのパスの回数を数えさせました。種田さんによ ると、別の研修でも、参加者が数えた回数は一桁から二〇回以上までとばらつき、映像中に黒いゴリラという“異物”が横切っても八割が気付きませんでした。
 種田さんは、「ある点に注意を向けるとそれ以外は不注意になる。だからこそチームとして協同する必要がある」と指摘。そのうえで、「八割がゴリラを見逃 しても、気付いた二割が“危なくないか?”と発信し、みんなで確認できれば、間違わずに済む。一人では高い確率で間違える。“おかしい”“危ない”と発信 できるチームづくりを」と呼びかけました。

〔テーマ別セッション〕

感染管理

 「感染管理」では、全日本民医連医療安全委員の加藤好江さん(東京・みさと健和病院感染管 理認定看護師)が「やさしく学ぶ感染予防~現場で生かせる対策」と題して講演。土台である標準予防策に加え、「空気感染」「飛沫感染」「接触感染」それぞ れの予防策について説明しました。(『民医連医療』七月号に詳細)

【インフルエンザ】

 東京・柳原病院(外科・内科の一般病床八五床)の実方幸子さんは、昨年二~三月のインフル エンザ集団発生を報告。患者八人、職員四人の計一二人が発症しました。最初に発症した入院患者を個室に移しましたが、それに伴い転ベッドした他の患者が数 日後に発症しました。患者間の交差がなかったか、職員が媒介して他の患者に感染させたのではないかと考え、以下の対策を講じました。
 *職員が飛沫感染の媒体にならないための防護策…マスクの正しい着用、一患者ごとに手指消毒または手洗い、ケア時はビニールエプロンを着用し一患者ごとに交換
 *転ベッド時のルール…【転ベッドの前に】(1)職員の 準備(役割分担、マスク着用、手洗い・手指消毒剤使用、ビニールエプロン着用)(2)患者と周囲環境の準備(患者マスク着用、ベッド周囲の掃除)、【職員 が交差しない体制の整備】罹患者隔離の担当と、未罹患者の担当を完全に分ける【夜間の人手が少ない時】転ベッドせず、カーテンで隔離(隣の患者と一メート ル以上離す)

【ノロウイルス】

 徳島健生病院(一八六床)の病棟師長・内藤江美さんは、二〇一〇年に起きたノロウイルス集団感染を報告。全ての病棟で発生し、入院患者の四二%に当たる八一人、全職員の一〇%の二六人(医師を含む)が感染しました。
 過半数の患者が発症した一病棟では、職員のユニホームを毎日洗濯し、全患者の食器をディスポ化。他の病棟でも感染者についてはディスポ化しました(のちに全てをディスポ化)。
 発生三日後、緊急に全職場で標準予防策を学習。患者が交差するリハビリが感染経路と考えられたため一病棟のリハビリを中止(二日後には全て中止)。患者・職員の感染兆候を毎日サーベイランスしました。
 感染拡大の背景には、感染対策に対する知識不足が。最初の感染者発覚の前に患者一人、職員二人が嘔吐、下痢をしていたり、症状があるのに出勤した職員も いたと分かりました。感染経路特定の遅れや、感染拡大した病棟以外の対策の不十分さもありました。

【老健施設で発生した疥癬】

 埼玉・老人保健施設さんとめの元事務長の貞弘朱美さんは、施設での感染拡大を報告しました。
 同施設は療養棟と通所リハビリを備え、人の出入りが多いのが特徴。二〇一一年五月に発覚した疥癬(かいせん)の収束に五カ月を要しました。
 最初の患者が発生した療養病棟で同様の症状を訴える利用者・職員が複数いたため、同病棟を中心に標準予防策を実施。しかし、翌月に別病棟の利用者から症 状の訴えがあり、法人本部の医療介護安全委員会の指導を受けました。
 浴室のマットやタオルなどの共有が問題となり、入浴を中止しシャワー浴に変更、浴室、脱衣所のタオル類の全てを個別化しました。介護職がエプロンや手袋 を正しく着用していないなど、標準予防策の未徹底も明らかに。
 その後、確定診断は出なくても症状を訴える利用者が続き、新規利用の制限、未発症者の他事業所への転出などの対応をしました。
 市や保健所に連絡するも「報告義務のある感染症ではない」との反応。後日、ケアマネ懇談会で、半年前から地域の施設で疥癬が散発していたことが分かりました。
 貞弘さんは「対策が発症した病棟に限られ、施設全体で対策をとれなかったこと、医療職と介護職で感染症への知識に差があり、統一した適切な対応がとれなかったことが反省点」と報告しました。

〔テーマ別セッション〕

暴言暴力

 医療機関での暴言・暴力問題に詳しい北里大学准教授の和田耕治さん(公衆衛生学)が講演。後半は指定報告がありました。
 和田さんは、具体的な暴言暴力のケースも紹介しながら講演。医療機関で起こりうる暴力の種類や定義を説明し、対策の大前提に、管理者が「職員の安全を守 る」という姿勢を明確にすることだと強調。マニュアルがあっても末端の職員まで伝わっていないことが多い問題や、目に見える暴言・暴力は「氷山の一角」 で、水面下には職員の質の低下や連携不足、人員不足、施設環境が悪いなどの問題が存在する、と語りました。
 和田さんがあげた対策のポイントは(1)患者も医療者も安心して医療を受け、また提供できる環境作りが目的だと認識する(2)「いかなる暴言・暴力も許 さない。職員は組織で守る」という事業所の方針を表明(3)難しい事例には組織の叡智を総動員して対応の三点。そして「成果は見えづらく、賽(さい)の河 原で石を積むような作業に思えるかもしれないが、暴言・暴力対策は他の労働環境の改善にもなります」と、受講者を励ましました。
 指定報告は埼玉と北海道から。
◆埼玉協同病院の福庭勲医師と顧問弁護士の牧野丘さんが「暴言暴力対応方針・マニュアル策定プロジェクト」について報告。法人内の病院で発生した暴言・暴 力事件をきっかけに、法人の対応指針やマニュアルを作りました。
 PJの長には、医療安全委員会の委員長を務める医師がつき、各事業所の代表と、顧問弁護士も参加。議論を重ねる中で、現場で発生した事例検討を通じ対応 の「あるべき姿」をまとめ、事例集を作成。同時にPJメンバーも暴言・暴力への対応能力をつける、事例収集とその検討を通じ実効性あるマニュアルを模索す ること、をPJの目的として確認しました。事例集完成後は、県連で報告集会も開催。各事業所・職場単位でも事例集を学習し、冊子の中にある「対応例」をも とに、事業所マニュアルの作成や改訂を行うなど、良い変化が起こせています。
◆勤医協中央病院では、病院機能評価の受審がきっかけで暴言・暴力対策にとりくむように。対策指針や暴言・暴力発生時の対応フローチャートを作りました が、管理部へのコールのタイミングが分からなかったり、がまんしてしまうなど現場で機能しているといえない状況が。全職員アンケートで、一年間で暴言・暴 力を受けた職員が三四%にのぼることが分かりましたが、うち四三%がそのことを報告しなかったと回答しました。
 その後、管理部が対応方針を持つ、発生すれば夜間も管理部が駆けつける、被害にあった職員のメンタルサポートなど方針を整備し、メンタル不全に陥る職員を出していません。

(民医連新聞 第1553号 2013年8月5日)