相談室日誌 連載376 被災し独居になった認知症の高齢者を地域で見守って 鈴木弘人(宮城)
「震災で一人暮らしになった母親の見守りをお願いします」。Aさん(七〇代)と遠くに離れて住む娘から私たちに連絡がありました。
Aさんは母親と弟と三人で暮らしていましたが、震災で住んでいたアパートが全壊。その後、民間賃貸住宅(みなし仮設)にAさんだけが転居していました。
保健師と社会福祉士の二人でAさんの自宅を訪問。食事は近所のスーパーの惣菜などで済ませていたものの、家には郵便物などもたまり、散乱していました。 最近は物忘れも目立ちはじめ、認知機能の低下も疑われました。専門医療機関の受診を促しましたが、継続的な治療にはつながりませんでした。また、年金や貯 金も少なく金銭管理能力の低下が見受けられ、経済的に困窮することも予測されました。
Aさんの生活状況を確認して課題を整理し、近所に住む息子さんに援助をお願いしました。しかし息子さんは事業に失敗し自己破産していて、「面倒は見られない」という返答。
そこで、Aさん行きつけの喫茶店や友人の不動産業者、地域のボランティア団体など、それまで関わりのあった人たちにAさんの見守りを依頼、訪問や電話な どで支援をつなぎました。生活保護や介護保険の申請準備も行いました。
しかしAさんの認知症はそうした準備よりも早くすすみました。参加していた食事会や運動教室にも、道に迷い一人で行けなくなりました。
再びAさんの支援のためのネットワークの構築をはかりました。援助を断った息子さんにAさんの認知症状や地域のささえを受けて生活していることを説明。 息子さんも協力的になり、Aさんに付き添い、専門医療機関を受診。認知症の診断が出て、治療も始まりました。
その後は要介護1と認定もされ、支援の主軸をケアマネジャーに移行。当センターでは、これまでAさんが地域や関係機関で受けていた支援をケアプランに反映できるように、連絡調整も行いました。
Aさんは今も、地域のボランティアや友人、家族の支援や介護サービスを受けながら、地域で暮らしています。
(民医連新聞 第1553号 2013年8月5日)