“これで患者さんば、守れる” 無低診利用者に朗報 保険薬局の薬代を青森市が助成
青森市は七月一日から無料低額診療制度を利用する患者への保険薬局での薬代助成を始めました。これは高知市や旭川市に続いて三番 目。また同市では、助成期間を六カ月に設定。他の市の二週間という期限に比べても長い。病院や保険薬局の職員たちが、署名活動や市長への懇談を通して得た 成果です。「運動はムダじゃない」と、職員の自信にもつながっています。(矢作史考記者)
薬代に困っている患者さん
「よかった!」と、大野あけぼの薬局((株)あおもり健康企画)の柳谷円(まどか)事務長は笑顔です。「これまで病院で無低診をすすめても『薬局で薬代がかがるんだば、いらねじゃ』と言って断る患者さんがいたんです」。
社会福祉法で定められた低所得者向けの無低診事業は保険薬局では行えません。二〇〇九年から青森保健生協の病院や診療所が無低診事業を始めましたが、保 険薬局では負担が発生。大野あけぼの薬局ではやむなく薬代を請求し、支払い可能な範囲で受け取っていました。現場の薬剤師たちも患者さんの負担を気にしな がら薬の説明をしていました。
また、気になる患者さんを書き出してみると、服薬をがまんしている人が多数。経済的に困難な患者さんの存在が見えてきました。
そこで二〇一二年秋、「保険薬局でも無低診をやりたい。高知市のような助成制度を求めよう」と、青森県民医連などと運動をスタート。患者や青森保健生協 の組合員などに鹿内(しかない)博青森市長あての署名を訴え、約二カ月で三七二一筆を集めました。一一月に県連・青森保健生協・あおもり健康企画で要望書 と署名を提出し、市長と懇談しました。
市長には貧困のため必要な医療にかかれない人がいるなど、現場の実態を報告し、高知市の薬代助成制度の例をあげながら要請。同時に国に対し保険薬局でも 無低診が行えるよう働きかけてほしいと訴えました。市長はその場で「薬代助成は次年度予算で検討する」と回答。六月の議会で予算化(この助成制度についた 予算は今年度一七万六〇〇〇円)され、七月開始に。同市のホームページにも早速案内が載っています。
市内の薬局どこでも
助成のしくみは、無低診の患者が受診後、無料低額診療券(病院が発行)を処方せんとともに薬局で提示するだけ。薬剤師会に加盟する市内の保険薬局なら、どこでも利用可能です。
助成期間を六カ月としたのは実は市側の提案でした。「青森保健生協が無低診の対象にしている世帯は、収入が生活保護基準の一三〇%未満(一〇割免除)と 一三〇~一五〇%(五割免除)です。無低診利用者すべてが生活保護に移行するわけではない。ならば、保健生協が無低診の期間に設定している六カ月に薬代助 成の期間も合わせようと。民間の病院が低所得者をささえてくれているのだから、私たちも」と市の担当部。
また、無低診を行っている病院から、困窮した相談者の情報を市の健康福祉政策課に提供することも。同課は生活福祉課とも連携しているため、生活保護の申請や受給がスムーズです。
しかし課題もあります。助成期間の六カ月が過ぎた後はどうするか。薬局長の舛甚(ますじん)路子さんは「そもそも日本の患者負担が重い。また薬価も高く、海外の倍以上のものも多いです」と指摘します。
運動で変わった!
今回のとりくみは職員の自信につながっています。舛甚さんは「署名活動にとりくんだことはありましたが、こんな成果は初めて。運動すれば、変えられることを実感しました。他の職員も同じだと思います」と話します。
あおもり健康企画の佐藤光夫専務は「鹿内市長が再選されなければ、助成制度の実現はなかった」と振り返ります。市長選は現市長と自公が推す新人候補との 一騎打ち。二万票近い差をつけての再選でした。「現場の声に耳を傾ける政治は大切。そして運動がないと政治には反映されない。両方あって患者さんを守れ た」と話します。
県連内では他の自治体へも同様の働きかけをしています。柳谷さんは「県内は経済的に苦しい人が多い。お金の切れ目がいのちの切れ目にならないように、民 医連外の病院や近隣の自治体にも広げていきたい」と語っています。
(民医連新聞 第1553号 2013年8月5日)