政治を語ろう!2013参院選 民医連の“提言” 実現したいネ ―現場の仲間が読んだ
参議院選挙にあたり、全日本民医連は「医療、介護を金儲けの道具にさせない。」を掲げ4点の提言を発表しました。どう読んだ? 4人に語ってもらいました。(木下直子記者)
●提言1
まともな医療と適正な医療費は公的医療保険制度の充実でこそ実現できる
千葉・松戸健康友の会 幹事 関 智子さん
公的な医療保険は、国民の健康のために欠かせません。それは、私がとりくんでいる国民健康 保険を良くする活動を通じて、痛感しています。先日も幼い子ども三人を抱えるお母さんの相談が入りました。「国保証を返還するように」という通知が市から 届いた。世帯主が失業して保険料が払えずにいたけれど、小学生を頭に下の子はまだ一歳。「保険証が無くては困るのです」と泣くのです。
二〇〇八年末に子どもからは保険証を取り上げないと法改正されたので、この世帯の子どもたちにも半年間の短期証が出ます。しかし親が無保険状態では、健 康で働き続けられる保障はなく、子どもを養育する義務を果たせるかも不安です。
松戸市では国保資格証明書の発行が急増しています。資格証明書は、国保料を滞納した世帯にペナルティーとして出るもので、窓口負担は一〇割。無保険状態 に等しいわけですが、一二年の発行数は前年の一〇倍になりました。
自治体は、国がすすめている社会保障制度改革推進法の方針に忠実に、保険料の収納率を上げようと必死です。その結果、国保法で保険証を取り上げてはいけ ない「特別の事情」に該当する病気療養中の人から保険証を取りあげたり、借金してでも保険料を払えと指示するなど、これまでなかった対応も出始めていま す。
一方で自治体の財政難は事実ですから、国が一度減らした国庫負担を戻す措置が必要です。そのためにはこの参院選で、いのちを守る議席が一つでも増えることを願っています。
●提言2
人間の尊厳を守る労働と生活の保障を国の責任で実現する
神奈川・平塚診療所 検査技師 尚和のり子さん
検査技師をしながら、困窮した人たちを支援する市民団体「平塚パトロール」で活動しています。人間の尊厳を守る労働と生活保障制度―。いまの日本に必要な提言だと思います。
「派遣切り」は過去の話ではありません。日比谷に派遣村ができて以降も、雇用環境は改善せず、「働き続けたいのに安定した仕事が見つからない」という状 態が続いています。五〇代、六〇代では、非正規の仕事さえ得られない人も。そうした人たちの行き着く先がパトロールで出会うホームレスです。そしてそんな 彼らの社会復帰をめざして生活保護につなごうとすると、大きな壁に突き当たるのです。
まず、福祉事務所に行っても、保護の申請は簡単ではありません。平塚市では生活保護の相談に来た人の半数が、申請もできず帰されています。なんとか受給 まですすめた人にも苦労はあります。「就労指導」の名目で、仕事が見つけられないことをなじり、その人の人権を踏みにじるような言葉を投げられることも日 常茶飯事です。その中で先日から報道されている事件※も起きました。
政府は、窓口での不当な運用を改善するどころか、保護基準の引き下げを決め、生活保護法の改悪を行おうとしました。生活保護からの閉め出しを行っている窓口には「追い風」です。
政治って大きい。現場に影響します。政権が自民党に戻っただけで窓口の対応は悪くなった。これ以上、日本を生きづらい社会にしてはいけない。
※平塚市の福祉事務所が受給者(40代)に2カ月間生活保護費を渡さなかった事件。当事者は栄養失調で重篤な状態に。担当CWは就職活動の怠慢を理由にしたが、当事者は体調不良だった上、受診も許されていなかったと判明。
●提言3
安全安心の保健・医療・介護ネットワークを地域で実現する
北海道・江差診療所 所長 大城 忠さん
地域経済が沈下して若者たちは都会に出ていく。若者たちがいないと地域はまた衰退する。町内会は維持できなくなってきた。
多くの人がこの土地、この家で最後まで暮らしたいと思ってきたが、無理だと受け止めるようになってきた。おぼつかない足取りで診療所に通う高齢の患者さ んに「もっと歳をとったらどうする?」と聞く。前は「先生のところで入院して看取ってもらう」と答えた。小さな診療所、入院機能は維持できなかった。最近 は「だめになったらホームに」という。でもね「お金の面でも安心できる施設は難しいんだ…」と言えず診察を終える。
心と体が静かになり人生の最後に向かう高齢者が、慣れない場所を転々とするのはゆるくない。もっと静かに暮らさせてあげたい。
地方の医療介護資源の絶対数が足りない。人も金もない。少ない医師たちは疲弊している。急性期医療が役割の自治体病院に、行き先の決まらぬ高齢者が臥床 している。「その高齢者たちを施設が引き取って!」と叫ばれても、徘徊する高齢者の介護もある。そこに大切な最期の人生に寄り添えなんて、目も届かず申し 訳なくて無理だと介護職が嘆く。診療所はなんとか在宅でがんばろうとするが、二四時間の支援体制がとれない。
列挙するのも申し訳ない、愚痴のような苦しさが並ぶ。
◆◇
ないないだらけの地域で、既存の施設、職員、住民のネットワークづくりは地域を守る数少ない選択肢の一つで、攻勢的な方針だ。
事例を通じて急性期病院と診療所、ケアマネ、施設職員、関係者が地域の課題を議論する。
国は「在宅や施設で看取れ」と号令をかける。最後まで家で生きる文化も、ささえる体制も消えた地域。今がんばっている医療介護職が、助け合うためのスキ ルアップが必要だ。急性期病院は介護や在宅療養を知る必要が、介護分野は急性期医療の限界や、施設での医療への関わりを知る必要がある。また住民は社会資 源を知り、医療介護の主体者になる必要がある。
ネットワークは電子媒体で情報をつなげれば良いものではない。互いの困難を理解し、要求に応える力量アップが必要だ。
◇◆
ネットワークづくりは顔の見える関係づくり、空間を超えたコミュニティーづくりだ。それには行政の力が必要だ。
医療・介護のミニコミ誌を作り、町民に配布した。民間が手弁当でつなげる活動に限界が見えた時、補助金を適用し、事務局役を果たしてくれたのは行政だった。ネットワークづくりが着実にすすみだした。
今、必要なことは国の号令だけではない。住民、医療介護職の思いを共有し、具体的に参加しすすめること。その本気度が問われている。
●提言4
企業、国民の応分の負担と税金投入で必要な財源を確保
山形・庄内医療生協 専務 岩本鉄矢さん(民医連副会長)
税金の使われ方がまともでないために、医療活動やそれを担う職員が押さえつけられている、 と思います。たとえば消費税。私の法人では年一億二〇〇〇万円の負担です。税率が一〇%に上げられればこの倍に。医療は非課税なので、医療の中でかかった 消費税を患者さんに転嫁できません。「医療機関が負担する消費税分は診療報酬に入っている」と政府は説明しますが不十分です。医師会も、医療機関が負担す る消費税は現在二・二%だと報告しています。
診療報酬制度は、医療経営を保障するために作られました。当時の厚生省は「先生たちは今後、経営を心配する必要はない」とまで言いました。ところが、い まや診療報酬は削減の一方。病院経営が成り立たず廃院する事態も、民間・公立限らず起きる。地域医療が崩壊し、医療難民まで生む始末です。
「財政難だから社会保障も聖域にせず削るんだ」という政府の議論がおかしいですね。社会保障財源の困難は、国の支出を減らし、企業主の負担割合を軽減して きたからです。しかしそれ以前に「社会保障とは何か」の視点が抜け落ちている。そもそも社会保障制度は、資本主義の発達に伴い、産業を維持発展させるため に生まれたものでもあります。資本の思うままに労働者を使い続ければ、労働者は疲弊し、国力の危機にも結びつく。社会保障は国全体に必要なのです。それを 「バラまきだ」と非難し、大企業の儲けになる大型公共事業には何も言わない政治は異常です。民医連の提言は、ごく当たり前の内容です。
(民医連新聞 第1552号 2013年7月15日)