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民医連新聞

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いのち守る共同をいま 岡永歯科 岡永寛(さとる)院長 「受療権侵害は人権問題」 無低診始めた開業医

 昨年四月から、無料低額診療事業を始めた岡永歯科(千葉県市川市)の岡永寛院長。患者負担分は医療機関の持ち出しになる無低診 を、開業医が単独で担うのは珍しいケースです。今年二月には、朝日新聞のオピニオン面で無低診の活用を呼びかけ話題に。「日本はいつの間にか、医療格差社 会になってしまった」と話す岡永院長は、民医連とも積極的に連携しています。(新井健治記者)

 近年、どの歯科診療所でも経済的に困窮している患者が増えています。応急処置のみで治療を中断したり、「治療を受けたいが、保険証がない」との相談も。幼稚園の健診では、虫歯だらけなのに放置している子どもが目立ちます。
 日本歯科医師会の調査(二〇一一年)では、五五%の人が口腔内の異常を感じているのに、受診は二割にとどまっています。少し前に自費診療の患者が減り、今では保険診療さえも減っています。
 開業したのはバブル真っ盛りの一九八八年。当時は保険で歯科にかかれない患者は例外と思っていましたが、今は当たり前になってしまった。
 国民健康保険の被保険者の所得を調査して驚きました。二〇一〇年度の平均年収は一世帯当たり一五八万円と、一九九二年の二三九万円から激減。この所得で 国保料等を払えば、生活保護基準に近い収入しか残らない。これでは病気になっても受診できません。「国民皆保険の崩壊」といえるのではないでしょうか。

知られていない無低診

 そこで、困っている患者を救いたいと、無料低額診療を始めました。ところが、一年間でこの制度を利用したのは二人だけ。いずれも民医連の船橋二和病院から紹介された患者です。どうして反響がないのか、不思議でした。
 当院のホームページには無低診をはじめ「限度額適用・標準負担額減額認定証」、生活保護制度、短期保険証、資格証明書まで分かりやすく紹介しています。ただ、こうした制度を使いたい患者は、ネット環境から遠い存在にあるのかもしれません。
 ネット上の相談も一件だけありましたが、その患者さんは家族から「そんな、うまい話があるわけない。騙されている」と言われ、受診を断念してしまいまし た。こんな誤解を生じるほど、無低診は全く知られていません。
 行政の無理解、無関心にもびっくりしました。事業を始めた時、チラシを携え市役所や福祉事務所、社会福祉協議会を訪れましたが、「特定の医療機関を紹介 することはできない」と言われました。無低診は夜間や休日救急診療と同じ公的制度のはずなのに、これほど対応が違うとは…。

民医連と連携

 このままでは無低診が機能しないと考え、医療機関同士の連携を探りました。ところが、これだけ歯科診療所があるのに県内では実施機関がほとんどない。そこで医科まで連携先を広げ、民医連の千葉県勤労者医療協会と出会いました。
 千葉勤医協の船橋二和病院と四診療所や、済生会習志野病院と連携し患者の紹介をしています。医療機関がチームを組めば相談窓口が増え、複数の疾患を持つ患者にも対応できます。
 日本は社会制度としてのセーフティーネットが脆弱です。そのうえ、ボランティアも文化として根付いていない。欧州では教会が担っているボランティア活動を、日本では民医連や日赤が肩代わりしている。
 無低診を活用し、健康になって仕事に就けば、経済的な自立につながります。無低診は生活保護手前のセーフティーネットです。

患者の“駆け込み寺”

 当院はもともと、一般的な歯科以外にさまざまな症状に対応してきました。「治療が怖くて貧 血を起こす」「口臭が気になる」など心理面が原因の患者を対象にした心療歯科もその一つ。顎関節症の治療のためにカイロプラクティックの資格を取り、ドラ イマウスや金属アレルギーにも対応しています。
 歯科、内科、皮膚科、外科など、各科の隙間に埋もれ、行き場のない患者の“駆け込み寺”的な役割を担ってきました。すべては「患者の要望に応えたい」との気持ちからです。
 無低診の患者負担分は当院の持ち出しです。街中の普通の開業医なので、始める前に多少は抵抗感もありました。でも、「困った人はほっとけない」という性分。なにより、受療権の侵害は人権問題です。


※限度額適用・標準負担額減額認定証 住民税非課税世帯など低所得者向けの制度。これを医療機関で提示すれば、医療費の一部負担金の支払いが自己負担限度額までで済み、一時的な費用負担が軽くなる。また、入院時の食事代の標準負担額が減額される。

岡永歯科
JR下総中山駅徒歩7分。訪問歯科、障害者歯科にもとりくむ。
住所 千葉県市川市鬼高3-11-9
TEL 047(376)3503
HP http://www.okanagasika.com

(民医連新聞 第1552号 2013年7月15日)