相談室日誌 連載375 “困っている”と発信できない人たちのために 永野稚子
アルコール性の急性膵炎で緊急入院してきた四〇代のAさん(男性)。「お母さんが“入院費を払えない”と言っている」と病棟からの連絡で、私たちが関わる事になりました。
Aさんは一〇年前に大工を辞め、母親の年金を頼りに二人で暮らしていました。支給額は少なく明らかな困窮状態でした。
生活保護を提案しましたが、母親は「絶対嫌! 以前、生活保護を受ける時にCWからまるで“モノ”のように扱われ、嫌な思いをした。車も、『仕事で必 要』と言っても役場から処分するよう指導が入るろう? そしたら息子が暴れるに決まっている!」と了解されません。
話の中で、Aさんが一日中酒を飲んでいること。気に入らないと母親に怒鳴り、壁を殴って何度も警察沙汰になっていたと分かりました。Aさんに怯える母親 は、心臓疾患を抱えているが受診できず、日中は自転車であてもなく外出していた、と泣きながら訴えました。
親子は地域でも孤立しており、退院後もフォローの必要を感じました。Aさんと母親に「今回の入院費だけでなく、今後の治療や生活のために生活保護が必 要」と何度も伝え、何とか申請を了解してもらい、生活保護が決定しました。
また、お酒や暴力の問題と見守りを保健所の保健師に相談。でも関わり方が検討され「親子は共依存関係にある。まず本人が酒をやめようと思うこと。母親も “困っている”と発信することが必要」とのアドバイスを受けました。
そこで主治医と保護課の担当CWがAさんと面談、当院退院後にアルコール依存の治療で入院する事に。またSWから母親にも働きかけ、母親から保健師に相談する事にもなりました。
今回Aさん親子が地域で生活を再開するにあたり、その環境や社会資源に目を向ける重要性を実感しました。複雑な生活背景や問題を抱える方が増える中、 「SOS」を発信できる方はまだまだ少ないと感じています。その方らしい生活を地域で送れるよう、誰とつながりどのようにサポートするか、それをSWとし て本人や家族の想いに添いながらどうコーディネートしていくかを大切にしていきたいです。
(民医連新聞 第1552号 2013年7月15日)
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