「寄り添う」キーワードに支援 原発事故被災者への健診等の活動交流集会ひらく 全日本民医連
東電福島第一原発の事故被災者の健康相談や健診などに、多くの県連や事業所がとりくんでいます。また昨年末から、福島県双葉町の委託で甲状腺エコー検診も 始まっています(対象は事故当時四〇歳未満)。全日本民医連は、これらの活動の交流集会を六月一日、東京で開催。三二県連から九〇人が参加しました。(木 下直子記者)
民医連はどう向き合ってきたか
冒頭、全日本民医連の原発事故被ばく対策本部長・小西恭司副会長(医師)が、とりくみを振り返りながら、問題提起しました。
集会の目的は次の四点です。(1)旺盛に検診・健診・相談会を行う、(2)検診結果の見方、長期的にフォローする上での医学的視点などの交流、(3)甲 状腺エコー検診での判定の質向上のため、一八歳以下(県民健康管理調査と重複する双葉町民、福島県民は特に)のB・C判定と二次精査医療機関への紹介に関 する意見交換、地協単位のチェック体制の検討、(4)検診費用の考え方などを子ども被災者支援法案など今後の運動の課題とも関連して考える。
■体制づくりすすむ
原発事故問題に対応する体制づくりは、全国ですすんでいます。集会に際し行ったアンケート によると、約七割の県連が被ばく事故対策委員会を設置。広範な職種で構成されているのが特徴で、会議は大半が毎月または隔月で開かれています。未設置の県 連の悩みとして出されたのは「原発立地県でないので課題が明確にならない」「中心になる医師がいない」などでした。
検診や相談活動に関しては、六割を超す県連が甲状腺エコー検診にとりくむなど活発な一方、相談活動や総合的な健診にとりくんでいる県連はまだ一割です。 さらに強化が求められる課題です。
■甲状腺エコーは2000人超
甲状腺エコー検診は、福島県内外あわせて二〇八六人に行ってきました(資料)。チェルノブイリ原発事故では、放射性ヨウ素の内部被曝で小児甲状腺がんが発生しました。甲状腺エコーは早期発見に有効な検査です。
なお福島県では県民健康管理調査として、事故当時〇~一八歳だった県民に甲状腺エコー検査を二年に一度行うことにしています(二〇歳以降は五年ごとの実 施)。
■信頼をつくりながら
一一本の指定報告と一本のフロア報告がありました。福島県外での支援はまず、地元に避難してきた被災者とのつながりづくりから。どの県連も、被災者が何を求めているかに耳を傾け、信頼をつくりながらすすめていました。
多くの被災者に応えようという工夫は随所に。「保養などで一時滞在中の機会を利用した相談会や健診の実施(北海道、愛知)」、「町ぐるみの避難者の元に 出張検診を行う(埼玉)」など。また埼玉は、相談の機会を広げるために原爆の被爆者外来の名称を「被ばく相談外来」に変えています。
専門医がいない、被ばく医療の蓄積がないなどの問題があるが、議論し実施しているとの報告も(栃木、沖縄)。民医連外の医師たちと協力し、検診の質を高 める努力も行っています(愛知、奈良)。地協レベルでも学習交流にとりくんでいます(近畿)。
また被災者が避難した地域で居場所が作れるよう、健康まつりに招いたり(兵庫)、共同組織と交流の会を開く(愛知)など医療の枠を超えた活動も。
福島からは二本。県内の子どもの甲状腺検査と全国カンパで導入した放射線測定機を使ったとりくみです。全日本民医連からも、「東日本大震災・原発事故の子どもたちへの健康影響調査」の進捗状況が報告されました。
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閉会にあたり、被ばく問題委員会の藤原秀文委員長が「全日本民医連の提起を正面から受け止め、活動が前進している。『寄り添う』がキーワード」と述べ 「じっとしていては何も起きないが、動けば新しい経験が生まれ前進する、実践的な教訓が学べた。運動と医療の両輪で民医連らしくすすめよう」と呼びかけま した。
実践つぎつぎ 指定報告から
福島 子どもの甲状腺検査(松本純、生協いいの診・所長)
全国で避難者のためにとりくんでくれることに感謝。福島県内でも双葉町民の甲状腺エコー検 査を行い一一四人が受診。福島県は事故当時一八歳以下だった県民三六万人の甲状腺検査を行う方針。だが県民調査は、経過観察が二年先、一九歳以上が対象 外。住民の不安に応え県内五町村が独自の検診を決断している。福島医大は検査の中間報告で「原発が原因と考えにくい」としたが、予断せず慎重な対応が必 要。そのためにも県の調査は計画どおり遂行されねばらないが、原子力規制委のWTは検査の縮小を提言。医師会も医大も抗議。県の計画すら後退させる政府に オール福島で怒っている。
福島 FTFを活用(鹿又達治、桑野協立病院・事務)
郡山医療生協では、ガンマ線を検出する放射線測定器・FTFを全国の支援も得て導入。ネッ ト上で性能への異議が出たが、WBC(ホールボディカウンター)とのクロスチェックや専門家の助言も得、性能十分と確認。一二月に本格稼働、地域で利用さ れている。口コミでつながりのない人たちが来たり、除染業者なども問い合わせが入る。この間二人の内部被ばくが判明。山菜を採って食べるなど食に問題が あった。長期になるが核害対策にとりくんでゆく。
栃木 専門の医師も技師もいない診療所で(軽部憲彦、宇都宮協立診・副所長)
甲状腺の専門医のいない有床診だが、甲状腺エコー検診を実施。依頼が入った時は迷ったが 「被災者に寄り添う姿勢で」との民医連の呼びかけに共感。「我々が断れば検査に漏れる被災者が出るのでは…」という懸念もあった。検査の質を保つべく、医 師も技師も研修。また、B判定以上の精査の受け入れ先には、県民調査と町民検診の関係や民医連の姿勢を丁寧に説明する必要に迫られた。精査体制がない事業 所は、連携先を念頭に一次検査を行う必要がある。判断に迷う症例が出た際、専門医を交えた検討会があると良い。
奈良 医師や避難者の力を借りて(横山知司、健生会・医師)
昨年一二月に健診を行った。希望者が多く、日程の追加が必要で七二人が受診。避難者の居場 所も知らなかったが、当事者団体や支援者と連携し、年齢・被災証明の有無を問わず受け入れた。無保険が分かり、無低診につなげた人も。健診を機に民医連外 の医師たちとも接点が。結果説明会には関西で避難者支援をする精神科医や保険医協会も来てくれた。今後は、当事者の費用負担の問題や避難者が相談できる医 療機関を増やすこと、身体面だけでなく、お金や生活面で相談に乗れる体制づくりが課題。
近畿地協 ノウハウを共有(松浦ときえ、京都保健会・看護師)
地協で被ばく対策学習交流会を開催。事前に被災者と懇談していること、小児のエコー検査への不安が払拭できたなどが各県共通していた。成功も失敗も共有し、今後実施する県にアドバイスできた。
被災者の声から できること、考える
愛知 避難者との交流会
愛知民医連は、「原発事故被災者の実態を聴き、何ができるか考えよう」と避難者との交流会 を三月三〇日に開催。「福島原発事故を忘れない」と題し、地元の大学生が福島からの避難者を追って制作したドキュメンタリー「あなたへ」を上映しました。 県連被ばく対策委員会が呼びかけ、職員や共同組織など約七〇人が参加しました。
映画が追うのは双葉町から公営団地に避難してきた若い夫婦。被災後、第一子も誕生し、地域の人々と心温まる交流が。一方、原発が奪った故郷への思い、安 全神話を信じた自らへの怒りなど、言葉にできぬ苦しみも切り取ります。
交流の時間に、避難者四人が発言。避難者同士をつなぐ活動、避難で起きた家族の葛藤、行政への不信、民医連に出会えた喜びなどが語られました。
愛知民医連と避難者との関わりは、事故から約九カ月後に県連に届いた一本のメールから始まりました。「避難者の交流会を開くが、健康不安が大きい。医師 に来てほしい」という内容でした。早川純午県連会長と事務局長が出向き、三カ所で開かれた交流会で被ばくに対する民医連の考えを話しました。「医師が行っ ただけで感謝されました」と早川会長。医療機関で健康不安を訴えても、相手にされない体験をしていたからです。やがて検診の要望が入りました。現在、愛知 民医連に加盟するすべての法人で検診を行っています。また、相談活動にいっしょにとりくんできた保険医協会の医師たちと共同の検討会ももっています。
(民医連新聞 第1550号 2013年6月17日)