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民医連新聞

民医連新聞

日本の首都で何が起きているか 迫る都議選

 東京都議会議員選挙が目前です(六月一四日告示、二三日投票)。石原前知事の後継を自認する猪瀬直樹知事は、昨年一二月の就任直後から二〇二〇年のオリンピック招致に躍起。その陰で、都民の生活や医療・福祉はどうなっているのでしょうか―。(丸山聡子記者)

 東京民医連の今井晃事務局長は「この一四年間で、東京都の医療と福祉はズタズタにされました」と指摘します。石原前知事が就任した一九九九年以降、都独自の福祉制度は次々と廃止されました。
 たとえば高齢者向けの制度として、シルバーパス(交通機関の無料パス)や老人医療費助成、寝たきり手当が廃止されました。その結果、高齢者一人あたりの 福祉費は、九九年度から二〇一一年度までに二三%も減らされました。高齢化の進行で、他の道府県が平均五割以上増やしているのと対照的です。

都民に遠い医療と福祉

 有名病院が多い東京ですが、都民にとって医療は遠い存在です。人口一〇万人あたりの病床数 は全国四二位、救急車の台数は最下位です。九八年に四一一カ所だった救急指定病院は、二〇一二年に三二二カ所まで減少。救急通報から病院到着までの搬送時 間は、全国最長の五四分。二番目に長い埼玉より一〇分以上も遅いのです。
 「都内の七五歳以上の人口は約一割に達します。超高齢化しているのに、救急病院は二割も減っている。まさに危機的状況です」と今井さん(図)
 特別養護老人ホームの待機者は約四万三〇〇〇人(一〇年現在)で、都内にある特養ホームの定員約三万九〇〇〇人を上回ります。待機者の過半数(五一%) は要介護4から5の重度です。「都が特養の用地費補助や人件費補助を廃止したため、増設が難しくなっている」と指摘します。

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オール与党で大型開発

 都議会は自民・公明・民主で八割超の議席を占めます。自公は知事の提案に一〇〇%賛成。「都立小児病院統廃合反対」の公約を投げ捨てた民主党も九九・五%賛成しており、八議席の共産党を除き「オール与党」体制です。
 オール与党は、まだ招致も決まっていないオリンピックを口実に大型開発をすすめています。東京都の予算一二兆円のうち、医療と少子化の対策費はわずか 二%、高齢者対策費は三%。その一方で、一メートル一億円といわれる外環道の事業費は二兆円にのぼります。このうち、国と都の負担分の二五%に当たる二六 〇〇億円で、特養ホームが二万床も整備できます。
 今井さんは「予算の一部を組み換えるだけで、都民の命や暮らしを守る多くの制度が実現できる。医療・介護の実態に耳を傾け、いっしょにとりくんでくれた 政党は共産党でした。議案提出権を持てる一一議席以上に伸びてほしい」と話します。
 都議選の翌七月には参議院選挙があります。憲法改悪や社会保障改革、消費税、原発問題など、都議選の結果は、国政にも大きく影響します。

医療
壊された独自制度
病院SWが語る

 中野共立病院(中野区)のSW・渋谷直道さんは、「東京には、難病患者や心身障害者、六五歳以上の高齢者などを対象に、医療費の窓口負担を無料にする独自制度が多彩にありました。それが一九九〇年代後半から縮小されてきた」と指摘します。
同院の回復期リハ病棟には、脳梗塞などで肢体不自由になった患者が多く入院しています。四〇~五〇代の働き盛りで、病気をきっかけに失業し住まいを失う人 も。身体障害者手帳を取得しても、制度のほとんどは「前年度の所得が非課税」が条件です。
 東京都の心身障害者医療費助成制度は、革新都政時代の七四年に本人負担なしでスタート。ところが、二〇〇〇年に当時の石原知事が自己負担を導入しまし た。「今の制度では前年度に働いていた人は非課税にならず、自己負担が発生する。本人負担なしの元の制度に戻してほしい」と渋谷さん。
 都内の特別養護老人ホームは極端に不足しており、高齢者の退院先にも苦労しています。「すでに特養は使える社会資源ではありません」と渋谷さん。介護保 険の対象ではない施設しか行き場がなく、経済的に余裕がなければ入れません。脳梗塞後の妻を、店の調理場の隅に置いたベッドに寝かせていたケースも。「用 地費補助など、行政の積極的な施策がない限り特養は増えない」と渋谷さんは訴えます。

国保料が 高すぎる!

 東京の区市町村は国保料(税)を次々に値上げ。加入世帯の3割が滞納しています。資格証明 書や短期保険証も年々増え、都全体で6.2%の世帯に発行。滞納者への差し押さえも強まり、延べ差し押さえ件数1万6706件、総額は約68億円に。受診 控えも起こり、手遅れ死亡事例が増えています。保険料引き下げのため、国、東京都からの財政支援が必要です。

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住まい
五輪が奪うふるさと
都営団地で

 都民の福祉をないがしろにする一方で、猪瀬知事が全力を注ぐのが、二〇二〇年のオリンピック招致です。
 「ここに住んで五六年。死に場所だと思ってきたのに」と悔しそうに話すのは、都営霞ヶ丘アパート(渋谷区)に住む大嶽光春(おおたけみつはる)さん (88)。代々木病院(東京民医連)から徒歩数分の距離にあります。
 約二五〇世帯が暮らす団地は建設から半世紀たち、入居者の多くは高齢者。昨年七月、都は突然の立ち退きを求めてきました。二〇一九年開催予定のラグビー ワールドカップに向け、隣接する国立競技場拡張のため、というのが理由ですが、「オリンピックも見据えているのだろう」と大嶽さん。
 戦後の焼け野原の時から暮らしてきた住民は、地元の神社の氏子になって御輿(みこし)も作り、街を盛り上げてきました。毎年恒例の餅つきには、団地を離れた住民も戻ってきます。
 町会は「団地は私たちのふるさと。守ってほしい」と要求。しかし都は「決定したこと」と繰り返し、他の都営団地への移転をすすめます。しかしそこは、買 い物をするにもバスや電車を乗り継がなければならない環境です。
 「ここには、電話一本で届けてくれる馴染みのスーパーも、通院する代々木病院もある。高齢者が見知らぬ土地に移ることがどれだけ負担か。“決まったこ と”と押しつける都のやり方は、若い頃に経験した軍隊そっくりだ」と大嶽さんは言います。

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(民医連新聞 第1549号 2013年6月3日)