• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

民医連新聞

民医連新聞

政治を語ろう!2013参院選 安倍内閣の規制緩和で“雇用ルール”が危ない

 参院選を前に国政を考える特集、今回は「雇用」について。安倍内閣が成長戦略の中核としてすすめているのが「雇用の規制緩 和」。これは、いままで働く人を保護してきた制度を根本から壊すもので、企業が労働者を好きに解雇したり、残業代ゼロでも違法にならないなど、信じられな い結果を招くもの。雇用がいま以上に不安定になれば、国民生活は“成長”どころではありません。(木下直子記者)

■急速にすすむ具体化

 日本経済再生本部(本部長・安倍首相、閣僚で構成)は、規制改革の重点分野として「エネル ギー・環境」「健康・医療」とともに「雇用」をあげました。経済財政諮問会議や規制改革会議、産業競争力会議(日本経済再生本部の会合の一つ)の三つの会 合で、成長戦略(骨太方針)とりまとめの六月をめざし、急ピッチで具体化をすすめています。
 会合メンバーは、日本経団連幹部や、小泉内閣時代にブレーンとして規制緩和をすすめた竹中平蔵氏や大田弘子氏といった学者たち。一方、労働者の立場で意見を出す人は一人も入っていません。

■労働者が守られない

 どんなことが検討されているのか? 規制改革会議が挙げた項目を大きく整理すると、▽解雇 の自由化▽非正規雇用の拡大▽裁量労働制の拡大など労働時間規制の撤廃、といった内容(別項)。日本経団連が発表した「2013年版経営労働政策委員会報 告」の「企業の余剰人員は四六〇万人・雇用者全体の八%」「グローバル競争の激化の中で、安倍政権には大胆な規制改革の断行を求める」という内容と合致し ます。
 「あらゆる項目が出た、という感があります。より立場の弱い労働者を保護するための制度を、できるところまで解体しようというのです」と、労働組合の全 国組織・全労連(全国労働組合総連合)の井上久事務局次長。全労連は今回の規制緩和を「働くルールを根本から破壊する『労働ビッグバン』である」と指摘 し、阻止の運動にとりくんでいます。
 解雇の自由化がすすめば、雇用環境はいま以上に不安定になります。非正規雇用が拡大すれば、労働者は企業が必要な時だけ都合よく使える「使い捨て」が当 たり前に。労働時間規制の撤廃は、人員削減や長時間労働を強制し、過労死・過労自殺を多発させることにもつながります。

■「名ばかり正社員」

 数ある項目の中で、優先して検討されているのが、正社員のあり方を見直す「正社員改革」です。
 代表的なのは「限定正社員」という身分の創出。正規と非正規の格差を緩和するという口実で、改善するように見せ、実は大きな落とし穴が。「限定正社員」 は、働く場所や職務などが限定された労働者。無期雇用が前提の正社員とは違い、所定の職場や職務がなくなれば簡単に解雇できる、まさに「名ばかり正社員」 です。
 解雇の自由化が、すぐに持ち出されることはないとしても、限定正社員が登場すれば、解雇規制はおのずと緩んでしまいます。

shinbun_1548_05

■世界一企業が活動しやすい国へ

 国民の暮らしの土台である雇用をここまで壊し、安倍政権がめざすのは?井上さんは「日本を 『世界で一番企業が活動しやすい国』にしたいのです。TPP参加の議論も急展開していますが、大企業のグローバル戦略に沿って、産業構造も組み換えたい。 これには労働者を、企業から企業へ簡単に『動かせる』ようにすることが必須です」と指摘します。
 グローバリズムをすすめる場合、国内の労働者保護を行うのが通常。グローバリズムの本家であるアメリカでさえ、労働者の生活を守る賃金を企業に約束させ る公契約法を広げています。日本では、むき出しの競争の中に労働者をさらす、アメリカでさえ取らない路線を取ろうとしているのです。
 「アベノミクスの世界観には、大企業と富裕層しか存在せず、実体経済や地道な地域経済は頭にない」と、井上さん。「いまでさえワーキングプアや、長時間 労働に多くの労働者が苦しんでいます。その解決こそ日本経済の再生になる。多くの人に問題を知らせ『安定した、やりがいのある働き方を手にしよう』と呼び かけ、労働ビッグバンを阻止したい」。

shinbun_1548_06

日本の非正規労働者は主要国で最多

日本
38.7%(2010年、厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」)
ドイツ14.5% イギリス 5.7% フランス13.5% アメリカ30.6%
(注)ヨーロッパは、有期労働者の割合

人を人として扱わない大企業を法で守ることになってしまう

ソニーに「震災リストラ」された元期間社員の僕が言いたいこと

 宮城の民医連職員・奥山大輝さん(30)は、東日本大震災を口実に雇い止めされたソニーの期間社員でした。震災後、同社は一一九人の期間社員全員に雇い止めを通告。二二人が労組に入ってたたかい、撤回させました。そんな奥山さんは「雇用の規制緩和」をどうみるのか?

 【奥山さんの話】一メートル四方にコンマ数ミリのゴミも許されない光学フィルム板の品質管理が仕事。工場は非正規なしには回らず「いずれ正社員に」との上司の話を信じ、三〇〇万円未満の年収でがんばりました。大企業で働く誇りもありました。
 雇い止め通告は、被災した工場の復旧作業をし操業再開が見え始めた矢先。目の前は真っ暗、僕たちは何年も働き、成果もあげ、間違いなく会社に貢献してい たのに。すぐ労組に入りました。ソニー労組は、同社の労働者すべてを迎えるという規約を持った珍しい組合だったのです。
 団体交渉でも会社はまともに対応しません。沢山のマスコミにも訴えましたが、「非正規だろ」と相手にされなかったり、取材されても載らなかったり。ソ ニーが被災地にラジオ一万台と三億円を寄付したと報道されても、裏で非正規を切っていることは報道されない。非正規が人として扱われないことを痛感し、た たかっても無駄かなと思いましたが、山下芳生(よしき)参院議員(共産)が国会で僕らの問題を取り上げたことで状況が好転しました。納得できる回答が出る までがんばれました。
 大企業は「一%」の側なのです。労働者に子どもがいようが命に関わろうが関係なく切る。利益しか考えないんだと身をもって知りました。雇用の規制緩和 は、政府がそういう企業のやりたい放題を法律で守るということです。許せません。

(民医連新聞 第1548号 2013年5月20日)