生保患者への後発品原則使用方針をみる 医療費抑制の「効果」はわずか 「人権侵害」でしかない
全日本民医連副会長 石川徹 医師
昨年四月に厚生労働省は「生活保護の医療扶助における後発医薬品に関する 取り扱いについて」という文書を出しました。生活保護を受けている患者は、後発医薬品(ジェネリック)を使うように、という内容です。「医療扶助費の抑制 が目的だとされるが、その『効果』はごくわずか」と全日本民医連副会長の石川徹医師。板橋区(東京)での試算に基づく指摘です。試算結果や生活保護と後発 品をめぐる動きを、石川副会長のレポートで見ていきます。
二〇〇八年に同省は生活保護受給者に後発医薬品を強制する方針を出しましたが、強い批判を 受けて撤回しました。今回の文書は「あくまでも強制ではない」と、慎重な表現ですが、全国各地で生保受給者に後発医薬品の使用をすすめるリーフレットが送 付されるなど、具体化が始まっています。
■後発品促進は「宣伝」だ
では、後発品への置き換えで、どの程度の医療費削減が期待できるのでしょう? 私の法人(健康文化会)のある板橋区の担当者から聞き取り、試算しました。
板橋区でも生活保護世帯は増えており、リーマンショック後は毎年一〇〇〇人超の増加。一二年七月現在で一万八六三六人と、区の人口比で三・四七%。東京都の人口比二・一四%より高い割合です。この数年間は、失業による生活保護受給者の増加が著明です。
区の生活保護の給付費は一〇年度で約三〇〇億円で、このうち約一三〇億円(四二%)が「医療扶助」です。薬剤費は二〇億円。このうち後発品に置き換えられる薬品すべてを置き換えても、削減できるのは一億円でした。
つまり、節約できるのは医療扶助の一%以下、生活保護の給付費全体では、わずか〇・三%に過ぎないということです。板橋区だけが特別な医療構造だとは考えられませんので、全国どこでも大差はないでしょう。
後発品の利用の「効果」は限定的なものに過ぎず、いわばキャンペーン的なとりくみといえます。
■患者や医療機関に介入が
最新の厚労省の資料を見ると、患者と医療機関への介入が強まることが予想されます。
レセプトの電算化で、患者ごと、医療機関ごとにさまざまなデータが行政に蓄積されています。例えば、多剤投与、受診が多い、同じ傷病で治療期間が長いな ど「指導対象となり得る者を容易に抽出できる」機能や、レセプト一件あたりの請求金額が高い、特定の診療や検査が多いなど「請求が他に比べて特徴ある医療 機関を容易に抽出できる」機能などです。
後発品についても、今年度から「医師が後発品使用が可能、と判断すれば、原則使用」の方向へ。先発品を希望する受給者には、福祉事務所から「健康管理指導」が行われる予定で、指導には看護師や薬剤師などの医療職をパートで雇って、あたらせるようです。
調剤薬局に対する調査も始まっています。板橋区でも、区内三六〇の薬局のうち、後発品に置き換えれば差額が多いと計算した八六薬局に、処方箋(せん)の 提出を求めています。医師が「後発品可」としながら、後発品が出ていない症例を確認する目的です。四月から、それに基づき確認された患者さんへの面談や説 明が始まる予定です。
■薬価を下げれば良い
板橋区の試算でも、すべて後発品に置き換えても削減できる薬剤費は全体の五%程度です。単純に計算して、先発品も含めてすべての薬剤の薬価を五%下げれ ば達成することができます。福祉事務所での各種の作業や患者さんへの「指導」も必要なく、生活保護だけでなく、すべての保険で自動的に薬剤費が削減できま す。患者さんの負担も減少します。
そもそも生活保護費を削減するのには生活保護の受給者を減少させるような政策を実行すべきであり、それは決して「水際作戦」や強引な打ち切りではなく、 国民の雇用の確保、所得の向上、生活の安定をめざすことです。生活保護の患者さんに対してのみ「後発品を原則使用」というのは、まさしく弱いものいじめ、 人権侵害です。
(民医連新聞 第1547号 2013年5月6日)