生活保護基準引き下げ撤回を 受給者1500人に実態調査を行って 全日本民医連
全日本民医連は、加盟事業所に呼びかけ、緊急の生活保護実態調査を行いました。政府が行おうとしている生活保護基準引き下げの影 響を明らかにし、引き下げの撤回を国に求める目的。全国の仲間が集めた約1500人のデータは、引き下げの実施が生活保護世帯の暮らしを今以上に困難に し、破壊するものであることを示しています。(木下直子記者)
全日本民医連では、生活保護基準は国民の「最低生活費」であり引き下げが国民全体に影響す ること、なにより生活保護受給者の生存権を脅かすものだと引き下げに反対し、法律家など幅広い人たちが呼びかける「STOP! 生活保護基準引き下げ」署 名を九万筆以上集めるなど、運動をすすめてきました。
一方、このとりくみの中で「生活保護受給者は楽をしているのでは?」などの声が地域や職員から出ました。これは多くの国民が持つ疑問です。受給者の暮ら しを「見える」形にする必要があると、尼崎医療生協病院が昨秋行った実態調査をヒントに、緊急調査を行うことになりました。
■調査のあらまし
調査は、民医連の事業所に受診歴のある受給者を対象に、二月二五日から一カ月間とりくみました。調査項目は、受給に至った理由や収支の状況、外出や交際など詳しく暮らしぶりを問うもの。職員が対面で聞き取りました。
四三都道府県連から一四八七件を集めました。目標の一〇〇〇件を大きく上回りました。
「生活を切り詰めている」と回答したのは八五%。一日の食事回数が「二食以下」は三二・二%。入浴は「週二回以下」が四七・八%にのぼりました。
教養娯楽に使える一カ月の金額は、「三〇〇〇円以下」が六〇・八%。交流の場に「全く参加できない」という回答は地域行事で七四・三%、冠婚葬祭でも五〇・四%でした。
現行の基準引き下げには、九一%が「反対」と回答しました。
■現行基準でもぎりぎり
「現行基準でさえ生活保護受給者はぎりぎりで暮らしていると分かりました」と調査を担当した岸本啓介事務局次長(国民運動部)。
食費や光熱費は、切り詰められるだけ切り詰めていました。「三食食べる」と答えたものの献立は朝昼晩同じ、という人も散見。食事を抜くのは辛いので少し ずつ食べているようです。「子どもは三食、母親は一食」という母子世帯も。「成長する子どもの食事は削れない」とお母さん。政府試算では、受給世帯の九 六%が削減に。引き下げ幅五%の世帯が七一%、五~一〇%の世帯は二五%。「基準が引き下げられて支給額が減れば、食事をもう一回減らすのか?入浴はしな いのか? 栄養や保清、健康維持に関わる問題です。人間らしく生きることも危うい」と岸本次長。
稼働層では生活保護に至った原因が「病気」もしくは「失業」とした人が大半で、「働けない状態にある」ことも示されました。「楽して働かない」などのバッシングへの明快な反論になっています。
■政府の引き下げ、根拠なし
政府は、今回の引き下げにあたって生活保護受給者に「健康で文化的な生活」が保障されてい るのか、実態を調査せず、当事者の意見も聞いていません。また、削減幅の計算に使われた消費者物価指数は、保護世帯のデータが無いため、一般世帯の消費支 出割合を使用。引き下げ率はパソコンやテレビなど、保護世帯が購入できない品物の影響を強く受けています。
「私たちのような民間団体でも調査を行った。いのちに直結する社会保障制度の政策決定で政府が調査もしないのは、モラルハザードともいえる」と岸本次長 は指摘します。「生活保護改悪は、社会保障に自己責任の考えを盛り込んだ『社会保障と税の一体改革』の突破口でもあります。社会保障を守るためにも負けら れません。この調査を手に、根拠のない引き下げは許さない世論を広げる時です」。
(民医連新聞 第1546号 2013年4月15日)