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民医連新聞

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“尾木ママ”からあなたへ(上) 居場所だと思える職場に成長がある

 新しい職員が入ってきました。良い職場づくりと若者との信頼関係を築くヒントを“尾木ママ”こと尾木直樹さんにインタビューしました。今の若者が育ってきた社会的背景と、お互いに育ち合える職場について聞きました。
(聞き手・矢作(やはぎ)史考 写真・丸山聡子)

医療現場の声を発信して

 医療福祉で働きはじめる人は、「こんな医療・介護をしたい」というイメージを持っている人も多いと思います。
 しかしドクターをはじめ、医療現場の状況はどんどん厳しくなっていますね。医療職は奉仕精神に満ちた人たちが多く、「私が一生懸命やれば」という思いを 抱きがちです。でもその人たちが不眠不休で働いてしまうと、患者さんを危ない状況にさらすことになります。
 民医連は現場の声を発信できる職場です。患者さんのいのちを預かる立場から社会に訴えていくことも考えて、がんばってください。

若者の背景にあるもの

 近年、若者と話していてもかみ合わず、ぎこちなさを感じます。就職してもすぐ辞めたり、「何を考えているのか、わからない」などと思う先輩も多いのではないでしょうか。
しかし、こういった若者の特徴は、個人の問題としてではなく、社会の構造から見る必要があると思います。
 現代社会はメールなどインターネット環境が充実し、バーチャルな時間が多くなっています。そのため若い人を中心に、対人コミュニケーションの経験が少な いままで育ってきました。バーチャルな世界が生活の第一の場となり、二四時間友だちとつながってメールを気にしています。
 そんな風に育ってきた世代と、リアリティーのある世界で育ってきた上の世代では、感覚の違いもあると思うのです。
 また今は、自分の本音より先生や友だちなど、周りの人たちの「空気」をどう読めるか、がとても重要になっています。ですから、職場など新しい環境で良い信頼関係を築くのが難しくなっているかもしれません。
 同時に今の若い世代の人たちは、学校でも、新自由主義的な考え方の競争にさらされてきました。他者との比較を通じて「自分」を見てきたのです。
 雇用環境も大変です。政府の発表によれば、二〇一〇年三月に大学・専門学校を卒業(中退を含む)し、社会に出た人の三年以内の離職率は五二%。また労働 者全体の三五%が非正規労働者という状況です。離職が悪いわけではありませんが、これは大変多い数字です。
そんな状況の中で若い職員たちは、「正規労働者は大変なんだろう」とプレッシャーに感じ、漠然とした不安を抱えているかもしれません。
 新入職員を迎える先輩のみなさんは、育ってきた環境がこのように違う事をまず前提にして考え、接する事が大事だと思います。

職場に自分の居場所を

 では、そんな中で職員が生き生きと働くために大事なことはなにか? キーワードは“エンパワーメント”です。
 仕事が自分の成長や喜びになると実感できると、新たな活力が生まれます。つまり、心に元気を出るのです。そのためには、職場の先輩たちの励ましや心遣いがいちばん大切だと思います。
 若者は大人に気に入られるように空気を読もうとしています。仕事をバリバリにこなしているように見えても、つらい思いをしています。彼らに対し「俺らの 時代は」と小言を言いたい時もあると思いますが、グッとがまん。その人の持っているつらさをキャッチしないと良い関係は築けません。
 折々、先輩からも「ありがとう」などの言葉をかけましょう。自信ややりがいを感じてもらい、「よくがんばってるね」といいながら、ごちそうして励ました りするのもいいと思います。すると「民医連っていいじゃん」と思えるかもしれません。
 そんな経験を通じて新入職員が職場を「自分の居場所」だと実感すれば、生き生きと仕事ができると思います。世間では「円安で景気が良くなる」と騒いでい ますが、それがすぐに労働者の賃金に反映するとは思えません。職員のやる気は、企業の活力です。日常的・恒常的に良い信頼関係を模索していく姿勢は、組織 にとって大事なのです。
〈次号は日本の教育やいじめについてです〉


尾木直樹さん

1947年滋賀県生まれ。中学、高校で22年間の教師を経て教育評論家に。 法政大学教職課程センター長・教授、臨床教育研究所「虹」所長。教育問題の調査、研究、執筆、講演活動を展開。メディアにも多数出演。「大津市立中学校に おけるいじめに関する第三者調査委員会」委員を務める。近著に『尾木ママの「脱いじめ」論』(PHP文庫)。

(民医連新聞 第1545号 2013年4月1日)