診察室から かわいい雛たちへ
この冬は例年になく大雪が続きました。三月に入っても春の足音は遠く、ここ数日ようやくその兆しが見え始めた東北秋田です。
春は旅立ちの季節でもあり出会いの季節でもあります。二年前に我が巣箱(医局)に入った四人の可愛い雛たち(研修医)が立派な若鳥となり、三人が巣立ち ます。例年のこととはいえ嬉しくも寂しいもの。特に二年前は、生涯忘れ得ぬ震災が起こった年であり、格別の思いが心をよぎります。かの地に思いを馳せるた び、その情景が昨日の如く思い出されます。現地の方々が今なお続く、いつ終わるとも知れぬ苦悩を抱きつつも、再興へ精力を傾けられている事に頭が下がる思 いです。
さて、その次に巣箱に入り、一年が過ぎようとしている雛たち九人は、ようやくしっかりとした足取りになってきました。時に躓き、転び、苦しみながらも、 切磋琢磨しつつ元気に育っています。その成長ぶりには驚くばかり。物事の吸収速度たるや乾いた土が水を吸収するごとくです。我々親鳥のすべき事は、栄養を たっぷり含んだ良質の水を与えてやる事。
良質の水、それは正確な医学的知識や技術のみならず「人に人として接する」という根本を伝える事ではないかと考えています。学問的な事は親鳥それぞれが 専門的見地から教え、学ばせ、考えさせながら繰り返し経験させる事で習得できるでしょう。しかしより重要なのは、人として接する事、つまりその人自身を正 面から見据え相対する事ではないでしょうか。
職業・地位・生活様式ほか、その人をとりまく社会的環境などに惑わされ、自身の観点・視野からしか人を評価できないようでは、医療人としての行く末が案 じられます。学問的には各専門科に劣るこの救急親鳥が、吸収させ身につけさせなければならないと感じている事、それは「人に人として接する」、ただそれだ けです。昔から「子は親の鏡」「子は親の背中を見て育つ」と言われています。雛たちが患者家族に接するとき、その態度はこの親鳥の姿の写しだと、日々心し ています。
最後に、今年新しく巣箱に入る六人の雛たち、いったいどんな風に育つやら。楽しみです。
(神垣佳幸、中通総合病院)
(民医連新聞 第1545号 2013年4月1日)
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