シリーズ 働く人の健康 ~原発での労働~ 使い捨てられる人たち 民医連を受診した元原発作業員
福島第一原発では、収束作業のために毎日三〇〇〇人が働いています。被ばくが避けられない高リスクの労働でありながら、安全管理 がずさんで、労働者の健康が後回しにされている深刻な実態がたびたび報道されています。民医連にも福島第一原発で作業後、体調不良となった元労働者から相 談が入っています。(木下直子記者)
広島共立病院が原爆被爆者向けに開いている被爆者相談外来にAさん(四〇代独身)がやって きたのは、昨年秋。山口県の建設労働者でした。「診察を始めてまもなく、Aさんはだるさを訴えベッドに横になりました。肥田舜太郎医師が話していた原爆被 爆者の『ブラブラ病』そっくりだった」と診察した青木克明医師。
■原発と知らずに福島へ
Aさんは鹿島建設の五次請けとして、勤め先の工務店の派遣で二〇一二年四~六月の三カ月 間、福島第一原発で作業に従事しました。「会社からは、福島出張だが危険のない仕事だと言われていた。東京に着き、鹿島建設の研修で初めて、行き先が第一 原発と知らされた。山口から僕と一緒に行った七人のうち三人は『話が違う』と帰り、僕らは『ウソじゃろ?』と思いつつ残るしかなかった」とAさんはいいま す。
原発の南、広野町にあるプレハブに泊まり込んでの仕事になりました。担当は三号建屋。破損した鉄骨の解体で、クレーンに物を掛け外しする玉掛け作業など でした。装着したAPD(個人線量計)のアラームが二回鳴れば免震棟へ退避するよう指示されていましたが、騒音でアラームが聞こえないことも。現場には鹿 島のほか、ゼネコンが競いあうように入っていました。「作業ノルマを優先させる空気もあった」。
タイベックの防護服は大柄なAさんには小さく、作業中、物をまたいだだけで簡単に破れました。ゴーグルと作業靴は使い回しでした。作業後、サーベイメー ターを自分に向けると、高線量で針が振り切れるほどの日も。外部被ばく線量の最高値は、三時間四〇分作業して一・一八ミリシーベルト。五九日間の作業で通 算三五ミリシーベルトに。
帰郷後、Aさんはふたたび地元で働き始めましたが、発疹が出て治らなかったり、異常なだるさを感じるように。休みたいと申し出たところ解雇に。また報酬 にも問題が。会社から支払われたのは一万二〇〇〇円の日当だけで、危険手当がつかなかったのです。
たちまち生活に困ったAさんは、周南労働相談センターへ駆け込みました。ここから民医連につながることになりました。
■「健康に支障ない」と東電
「山口からも原発の収束作業にに出ていたとは。これまで一〇〇〇件あまりの労働相談にあ たってきましたが、難しい事例です。健康を害した労働者の相談先も見つからない」と、相談を受けた岩本利彦さん(周南ユニオン委員長)。勤めていたB社は 話にならず、東京電力にも連絡しましたが「政府の定めた基準で作業しているので健康問題は起きない」と。
現在Aさんは生活保護を受給して暮らしていますが「熱中症が続いているような体調で、以前のように働けないのが辛い。体調が戻るまで治療や生活の保障が あれば。原発で一緒だった人たちのその後も気がかり」と話しました。
■立場弱い労働者
「原発は貧困があって成り立ってきた」と、いわき市議の渡辺博之さん(共産党)は語ります。事故後、Jビレッジ前に手作りの看板を立て、約五〇人の原発労働者の相談に乗ってきました。
四次請け、五次請けと何重にもなる雇用構造で日当は低く、被曝量が法定に達すれば働けなくなる原発労働者。しかし、厳しい箝口令のもと、問題があっても 仕事を失うことを恐れて、告発もできませんでした。これまで市民団体が何度か実施した電話相談にも当事者からの相談は入っていません。
「いかにひどい労働かがようやく見えてきた。無保険の労働者も多く、事故前にはなかったミリシーベルトという単位の被ばくもあります。雇用の違法を正す 中で、必ず健康問題は焦点になっていくはずです」(渡辺市議)。
原発廃炉をすすめるためにも、作業員が使い捨てにされる構造をそのままにはできません。
※青木克明医師の報告は『民医連医療』3月号にも掲載されています。
(民医連新聞 第1544号 2013年3月18日)
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