いのち守る共同をいま 城南信用金庫 吉原 毅理事長 “必ず止める” 脱原発の金融マン
脱原発を宣言した金融機関のトップがいます。城南信用金庫(本社・東京)の吉原毅理事長。信金業界二位の大手でありながら、原発推進派の財界に真正面から論戦を挑む吉原さんに聞きました。
(新井健治記者)
即座に廃炉にすべき
福島第一原発の事故から二年が経ちました。政府は原発再稼働をもくろむなど、脱原発の運動 はなかなか実を結びませんが、悲観してはいけません。脱原発は一過性のブームではありません。政府や世論の動向にかかわらず、原発は必ず止めなければいけ ない。私は毎週金曜日の官邸前抗議行動に参加したり、浜岡原発の廃炉を求める訴訟の原告にもなっています。
時間が経つほど、これまでの原発政策は間違いであったことが明らかになってきました。先日もNHKの特集番組で、経済産業省自身が核燃料サイクルの破綻 を認めながら、日本原燃のために存続を決めたことを報道していました。事実を見れば、原発は技術的にも経済的にも破綻している。議論の余地なく、即座にや めるべきです。
金融機関のトップが政治的な発言をすることには、周囲の反対もありました。ただ、「義を見てせざるは勇なきなり」の諺(ことわざ)にあるように、あれこ れ考えるより先に行動していた。電車の中で絡まれている人を見たら、理屈なしに助けるのと同じです。
「銀行は保守的なイメージが強いのに、なぜそこまでやるのですか」と聞かれたこともあります。私たちは銀行ではなく、信用金庫です。「地域を守り、人々 を幸せにする」のが信金の理念。医療生協と同じ協同組合組織の金融部門です。ただ、本来の理念を忘れて銀行化している信金もあります。職員には「信金とし ての誇りを持ち、正しい会社のあり方を見せよう」と呼びかけています。
原発は不良債権
政府はこれまで、「原発は発電費用が一番安い」と宣伝してきましたが、今回の事故で全くの 嘘であることが明らかになりました。事故の補償や使用済み核燃料の処理費用は莫大。コストもリスクも高く採算が合わない不良債権です。こんな危険な事業に なぜ、銀行がお金を貸すのか。さまざまな利権が絡んでいるからです。
原発はたった一基で数千億円が動く巨大ビジネス。企業、政治家、官僚、学者、マスコミの利益複合体が生じ、安全より儲け第一になった。お金の〝麻薬〟に狂わされたのです。
紀元前四〇〇〇年にできた時から、お金は常に人の心を狂わせ暴走させてきました。バブルもそう。城南信金はバブルのころも、サラ金や投資信託にはいっさい手を出しませんでした。
今も銀行が売るだけ売って、失敗したらお客さんの自己責任というような金融商品があふれています。社会の中に「自己責任」との概念が広まっていますが、 この言葉は嘘っぱちなんですよ。自己責任は無責任の裏返し。そもそも自己が単独で存在するなんて考えが間違いです。これもお金の魔力のせい。お金は人の心 をバラバラにする〝孤独のメディア〟なのです。
誇りを取り戻せ
財界で脱原発を宣言する人はなかなか現れません。黙して語らず、といったところでしょうか。大企業ほど、目先の利益にあくせくし大局観のない経営者が多い。企業理念や、大人としての誇りはどこへ行ったのでしょうか。
政治的な発言に対して、「そんなことをやったって、しょうがないじゃないか」「しょせん、偽善なんだよ」と言う人もいる。私はニヒリズムは大嫌いです。 ニヒリズムは自意識過剰の裏返し。そんな言葉はたたき捨て、真っ当な社会を作ることに力を尽くすべきです。
「分かってはいるが、政治的なことを言うのはちょっと」と躊躇する人もいます。無責任というか、勇気がなさ過ぎるというか。「面倒なことにはかかわらな い」―。これを今の世の中では合理主義というのでしょうが、この考えは非常に幼いと思います。
城南信金はボランティア休暇制度を活用し、職員も積極的に震災被災地の支援に駆けつけています。支援から帰ってきた職員は、いい顔をしています。人の笑 顔を見ることが自分の喜びであり、心の豊かさにつながる。支援をすることで、力をいただいているんです。
仕事も同じ。みんなが幸せに共存できる社会をめざして企業はあるのです。「人としての尊厳を考えたことはありますか。誇りある生き方をしていますか」 ―。自分に、職員に、常に問いかけています。
(民医連新聞 第1544号 2013年3月18日)
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