いのちの森に 基地いらぬ 沖縄 東村高江 ヘリパッドの建設阻止して6年 民医連が全国支援
ヤンバルクイナで有名な沖縄北部のやんばるの森に、米軍基地としてオスプレイ用のヘリパッド(離着陸帯)六基が新たに建設されよ うとしています。地元の東村(ひがしそん)高江地区では、村民が「ヘリパッドいらない住民の会」を二〇〇七年に結成、建設反対を訴えてきましたが、日本政 府は日米安保を盾に米軍のために工事を強行。沖縄民医連や県内外の支援者が建設阻止に立ち上がり、全日本民医連も全国支援を呼びかけています。二月上旬の 支援活動に同行しました。(新井健治記者)
午前六時半、県道七〇号線沿い八カ所に住民や支援者が散らばりました。県道を北上して「ジャングル戦闘訓練センター」(米軍北部訓練場)のメーンゲートを通り、ヘリパッドの工事現場に向かう作業員を監視するためです。
街灯もない県道は真っ暗。予想以上の寒さに震えながら、民医連の八人の仲間がメーンゲート前に立ちました。「○○○○(車輌ナンバー)白の軽トラ、北 上」。各所から続々と連絡が。沖縄県統一連の糸数清さん(那覇民商)がやって来た車を止め、人数と目的を聞きます。「先週は工事に来た車を追い返した」と 糸数さん。兵庫と岡山の民医連職員は、車種やナンバーをメモ。工事車両とそれ以外の車を区別する大切な作業です。
八時半、ヘリパッド建設予定地に近いN―4ゲート前から連絡が。重機の動く音が聞こえ、この日の工事が始まってしまいました。監視の眼を逃れるため、 ゲートを通らずにジャングルから歩いて工事現場へ侵入する作業員がいるからです。ほかにも変装するなど、あの手この手を駆使し工事を強行する国に、オスプ レイ配備を急ぎたい焦りが見えます。
九時過ぎ、監視を終えた住民、支援者二四人がメーンゲート前のテントに集合しました。「工事が始まって六年、ヘリパッドはまだ一つも完成していない」 「最近は工事を止められず、悔しい」「どこから作業員が入るか分からない。支援の人手が必要」と話す住民。「民医連がこんなに大勢来てくれて嬉しい」「や る気が出てくる」と発言する支援者もいて、自然と拍手がわきました。
砂川和之さん(兵庫民医連)が、職場で寄せ書きした連帯旗を手渡しました。「高江は遠く、一回来るだけでも大変。反対運動を六年間も続けているのはすごい。県連報告会で高江の現状を伝えます」。
“標的の村”
東村の高江地区は住民一五〇人の小さな集落です。豊かな自然に憧れて移住する子育て世代も 多く、中学生以下は人口の二割。やんばるの森は世界の環境保護団体が「最優先保護地」に指定、世界自然遺産の候補地でもあります。オスプレイ訓練用のヘリ パッドは、この森を切り裂いて造られます。
オスプレイはこれまで、五八回も事故を起こした欠陥機。上空を飛び回れば、住民は騒音のみならず墜落の危険に怯えなければなりません。「ヘリパッドがで きたら、もう普通の暮らしはできなくなる」と話すのは、住民の会の安次嶺現達(あしみねげんたつ)さん。
安次嶺さんには中学生から二歳まで六人の子どもがいます。自然の中で伸び伸び子育てをしたいと、一〇年前に嘉手納町から高江に。自宅は建設予定地から四〇〇メートルしか離れていません。
日本政府(沖縄防衛局)は二〇〇七年から、まるで集落を取り囲むように六基のヘリパッド建設を始めました。なぜでしょうか。住民の会のメンバーで、沖縄 医療生協組合員でもある宮城勝己さん(花き農家)は「米兵が住居や住民を標的に訓練をしたいからでしょう」と指摘します。
ヘリパッドはジャングル戦闘訓練センターの中に造ります。アメリカ本土にもない世界で唯一の訓練場では、食料なしで生き延びるサバイバルや、米兵をヘリ からロープで吊り下げ、“戦場”から離脱する訓練を繰り返しています。
これまで、海兵隊が投入された戦場の八割はジャングル地帯。海兵隊の海外侵略部隊としてのオスプレイは、ここで戦場さながらの訓練を行い、世界の紛争地 帯へ飛び立ちます。「米軍は住宅爆撃用の訓練をしたい。でなければ、あえて民家の近くにヘリパッドを造るわけがない」と宮城さん。
安保条約の矛盾が
基地を押し付けられた沖縄。日本政府はその沖縄でも小さな集落に、さらに“厄介”なものを 押しつけようとしています。辺野古新基地建設が民医連をはじめ全国の反対運動ですすまない中、攻めやすいところから攻めているとみられます。沖縄県知事や 東村村長はオスプレイ配備撤回こそ口にしますが、ヘリパッド建設は容認しています。
「普天間基地や辺野古は知っている沖縄県民でさえ、高江の現状は知らない人も多い」と安次嶺さん。ましてや県外のマスコミは、高江を報じません。ヘリ パッドは直径七五メートルですが、まぎれもない基地です。「県内に新たな基地は造らせない」が沖縄県民の総意のはず。高江には安保の矛盾が集中していま す。
県道70号を北上する米軍車両
高江に住む荘司剛さん、優子さんと昨年5月に産まれた双子。「オスプレイは絶対反対」と優子さん。切り絵作家の剛さんは「いのちを奪うものより、育むものを大切にすべき。単純なことです」
国が住民を裁判で弾圧
二〇〇七年以降、住民の会はゲート前の座り込みなど、非暴力で反対運動を続けました。とこ ろが〇八年、とんでもない事態が。国が建設反対の住民一五人を「通行妨害」で訴えたのです。一五人の中には座り込みに行ったこともない八歳の女児も(後に 取り下げ)。このうち、住民の会共同代表を務めた安次嶺さんと伊佐真次さんが本裁判になり、昨年三月、伊佐さんに通行妨害禁止の命令が下されました。国が 司法で住民を弾圧する、世界でも類を見ない恥ずべき行為です。
「国はインターネットの書き込みも妨害行為の証拠として提出、憲法で保障された表現の自由を侵害した。このままでは高江にとどまらず、脱原発などあらゆる運動ができなくなる」と伊佐さん。
伊佐さんは沖縄独特の位牌「トートーメー」を作る県内でも数少ない木工職人。静かな制作環境を求めて二二年前に沖縄市から高江に来ました。「相手が日米 両政府でも、あきらめなければ建設を阻止できる」と話します。
安次嶺さんは「裁判は他の住民への見せしめ。運動を萎縮させるのが目的です」と指摘。国は法廷で「安保体制維持のため」と主張しました。住民側は福岡高裁に控訴し、係争中です。
原発にも墜落しかねない
オスプレイは沖縄だけの問題ではありません。米軍は沖縄以外にも青森から鹿児島まで、二四都県にオスプレイの低空飛行訓練ルートを設定。高度六〇メートル以下の超低空訓練や夜間の無灯火訓練を年間三三〇回予定しており、原発にも墜落する危険性があります。
安次嶺さんの妻の雪音(ゆきね)さんは、「生活もあるし、六年も経つと正直しんどい。でも、やめるわけにはいきません。生命を育む森で、人殺しの訓練を する。こんな矛盾を許しておけますか。これは国民一人ひとりの問題。人手を増やし、みんなの力で建設を止めたい」。
(民医連新聞 第1543号 2013年3月4日)