みんいれん60周年<京都> 「国保証とりあげの犠牲 もう出さへん」 毎月 行政と懇談26年
全日本民医連六〇周年、月日が経っても変わらない民医連の姿を追う連載。二回目は京都から。京都市南区では一九八七~八八年にか けて、国民健康保険証を取り上げられた事による手遅れ死亡事例が立て続けに起きました。その痛恨の経験から、民医連事業所の吉祥院(きっしょういん)病院 や九条診療所が参加して「国保をよくする南区連絡会」を結成、八七年から毎月、南区国保課と懇談を始めました。それから二六年間、後に主体を京都南区社会 保障推進協議会(社保協)に移しながら住民の医療を受ける権利を守る懇談は、三〇〇回を超え、今も続いています。(矢作史考記者)
情報共有の場
地元・東寺で市の立つ「弘法さんの日」と呼ばれる毎月二一日が、南区社保協と同区国保課との定例の懇談日です。
一月二一日の懇談を取材しました。午後、国保課長が吉祥院病院に到着。当初この懇談は区役所で行われていましたが、最近は区役所の人たちがやって来ま す。南区社保協側は、生活と健康を守る会と民主商工会、そして民医連の三団体から、五人が出席。同社保協事務局長でもある九条診療所の堂本吉次事務長が進 行役です。
国保課長が資格証明書や短期保険証の交付状況を報告、前月との増減を見ながら、その理由も話します。
社保協側は窓口の対応に問題があるという情報が入ると、この場で取り上げます。また窓口の人員体制についても区に確認。人員が減ると、丁寧な窓口対応ができないことを懸念しているからです。
さらに議題は今後の保険料の変更時期の話題に。市の予算案などの動向も話し合いました。
懇談には吉祥院病院の若手SW・赤尾麻衣さんも参加していました。吉祥院病院で受けた相談事例や地域住民の状況を、必要に応じて伝えることにしていま す。国保法四四条で一部負担減免を利用中の患者さんが、転院しても制度をスムーズに使えるようになるなど、これまでも事例を通じて対応の改善がされてきま した。
また、この場では国保に限らず、自治体独自の福祉制度や税金の話、ホームレスの状況なども話し合います。多団体で情報を持ち寄り、問題を共有する機会でもあります。
きっかけは手遅れ事例から
この懇談のきっかけは、二六年前に遭遇した手遅れ死亡事例です。区内でおもちゃ屋さんを営む五〇代の男性でした。
この男性は、体調の悪さに悩まされていましたが、保険証がありませんでした。不況のあおりで経営難になり、大幅に上がった国保料を払えずにいました。病 院にかかりたくて区役所に相談しましたが窓口は「保険料を払わなければ交付できない」という答え。八七年に「保険料の滞納者にはペナルティーとして保険証 を取り上げても良い」という制度改悪が行われたことによる措置でした。全額を自費で支払う余裕もなく、我慢するしかありませんでした。
しかしついに耐えきれず吉祥院病院へ。一部負担減免の特例で入院するも、進行した大腸がんで手遅れの状態。治療のかいなく亡くなりました。
当時、吉祥院病院のSWとしてこの事件に遭遇した佐野春枝さんは「悔しかった。保険証さえあれば…」と振り返ります。それまでも病院は、貧しい人たちの ために活動をしてきましたが、あらためて、命の大切さを感じる出来事でした。佐野さんたちは同時に、南区でも保険証が取り上げられた人が多くいる事を知り ました。
「民医連はいのちを守る医療機関。そして患者さんが置かれている状況を行政に伝える必要もある」。その後、区内の労組や市民各団体といっしょに「国保を良くする会」を結成するに至ったのでした。
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また、佐野さんは退職後、二〇〇八年に同区で行われた市議補欠選挙に共産党から立候補。自民党との一騎打ちの結果、当選。佐野さんや民医連の活動を地域の人たちがどれだけ頼りにしているかを見せる結果となりました。
「自分でも受かるとは思わなかったんですよ。市議会で現場の事例を訴えると、議会は静かになりました。たまに『保険証がないのはその人の問題だ』と言う 議員もいた。でも私たちがつかんだ事例でさえ氷山の一角だと思います。多くの議員はお金がなくて受診もできない市民の存在を知らないんです」。
民医連の存在を確認しながら
懇談会をスタートしてから今年で二六年。三〇〇回以上になりました。
ここまで行政が継続して懇談に応じるのはなぜか? 堂本さんと佐野さんが口を揃えます。「行政も命に関わる問題だといえば情報を共有します。私たちは区 に問題があれば、指摘して正すだけ。懇談に出てくる相手も国の制度に従って運営しなければいけない一人の労働者。懇談を続けるためにはいっしょに考えるこ と」と。懇談は交渉と違い、ものものしい雰囲気はありません。共に解決していく姿勢です。
またこのとりくみを通して「短期証や資格書が多くなると、それに対処しなければいけないと思うようになる。多団体と行政が情報を共有することで、『民医 連が地域で何をしなければいけないか』を確認できる。モチベーションの維持にもつながっています」と堂本さんは語っています。
(民医連新聞 第1542号 2013年2月18日)
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