見えてきた若年2型糖尿病の実態 全日本民医連暮らし・仕事と糖尿病全国調査
全日本民医連医療部・学術委員会はこのほど、「暮らし・仕事と糖尿病についての研究~社会的な要因と糖尿病の関係」の全国調査を 行い、四〇歳以下の2型糖尿病患者七八二人の実態について第一次調査結果をまとめました。自己免疫の異常が重要な要因と考えられる1型糖尿病と違い、肥満 など生活習慣が要因の2型糖尿病は、その多くが四〇歳以降に発症するとされてきました。調査班は生育歴における貧困や労働環境の悪化が発症を早めているの ではないかと考え、若い2型糖尿病患者について全国初の調査を実施、九六事業所からデータが集まりました。社会格差が健康に及ぼす影響を明らかにし、医療 機関が対策を考えていくうえで注目されます。結果について、調査班代表の莇(あざみ)也寸志(やすし)医師(石川・城北診療所)の寄稿です。
3分の1に合併症
―調査の背景
私は二〇〇八年のリーマンショック後、城北診療所で初診時にすでに重症合併症を伴った二 〇~三〇歳代の2型糖尿病を三例経験しました。三例の共通点は(1)小児期・思春期からの肥満を背景とする糖尿病である(2)受診時にすでに重症合併症を 伴っている(3)学校卒業後、長期間非正規雇用に従事し、医療機関への受診がほとんどない、の三点でした。
若年の2型糖尿病患者の臨床的特徴を探ろうと、城北診療所に通院中の二〇歳以上四〇歳以下の2型糖尿病患者二六例の臨床像と生活背景を調査。結果は (1)男女とも多くの例がBMI三〇以上の高度の肥満から糖尿病を発症している(2)およそ三分の一が合併症(網膜症・腎症)をすでに有している(3)雇 用形態はブルーカラーや無職が多い、などが特徴でした。
また、京都の三浦次郎医師(吉祥院病院)も、同様に一〇例の調査を行い、(1)初診時に肥満を有し、HbA1cが高値(2)初診時に糖尿病の診断がされ ていない四人、中断三人、無治療一人(3)重症 合併症(前増殖性網膜症、ネフローゼ症候群など)を併発している(4)経済的困難が多い(無料低額診療四 人、生活保護二人)の四点を特徴に挙げ、貧困問題を含め、実態を社会的に明らかにする必要があると結論づけています。
労働・生活を明らかに
―調査の目的
城北診療所と吉祥院病院の調査を受け、全日本民医連医療部・学術委員会と順天堂大学総合診療科が協同して、全国的な実態調査を企画しました。
調査の目的は、若年者の2型糖尿病における(1)糖尿病(血糖コントロール、合併症)や肥満と生活・労働背景の関係を明らかにする(2)糖尿病と「ヘル スリテラシー」の関係を明らかにする、の二点。ヘルスリテラシーとは、健康情報(保健・医療情報)を上手に利用できる能力を意味します。
高度な肥満や低所得
―調査結果の概要
表1に調査の概要、表2、3に登録患者の概要を記しました。登録時のデータから分かることを、以下三点にまとめました。
表1 調査の概要 ■対象 |
(1)著しい肥満を伴う
今回の調査で登録した患者の平均的なBMIの推移と糖尿病との関係をみると(図)、二〇歳までにある程度の肥満状態になっており(二〇歳時BMI)、成人後(就労後)にさらに高度な肥満状態へ進展(過去最大BMI)、その後に糖尿病を発症しています。
人口全体に占めるBMI三〇以上の比率(二〇一〇年度)は、男性三・八%、女性三・二%です。高度な肥満と遺伝素因を背景に、若年者の2型糖尿病が発症 しているのが大きな特徴です。また、就労などの生活・労働環境が、肥満の増悪に影響していることも推測されます。
(2)予想以上に合併症が進行
合併症(表2)を見ると、男女合計で網膜症が二三・九%、増殖前網膜症四%、光凝固手術後五%、硝子体手術後二%でした。また、顕性たん白尿(糖尿病性腎症3A期)が一六・三%で、血清クレアチニン値二mg/dl以上の慢性腎不全例も存在するなど、合併症の進行は予想以上でした。
糖尿病と診断されたきっかけを見ると、健診以外の例が約半数ありました(表3)。企業健診があっても健診内容が不十分だったり、あるいは非正規雇用や国民健康保険加入者などで健診を受けることができていないことが、糖尿病の発見の遅れと合併症の進行に関係している可能性があります。
(3)高い生活保護受給率
登録者の雇用形態(表3)を見ると、男性は非正規と契約・派遣で一七・三%となり、全国統計(二五~三五歳)の一二~一三%と比較して高い傾向にあります。また、男性でおよそ三分の二、女性で三分一が、週四一時間以上の長時間労働に従事しています。
生活保護受給率は九・七%でした。二〇一〇年度の厚労省調査では、二〇~二九歳の生活保護受給率は〇・三八%、三〇~三九歳は〇・七%で、この年齢層の 一般的な受給率と比較して、異常に高いことが注目されます。貧困が発症・病像の進行や、診断の遅れに影響している可能性があります。
また、低学歴も特徴です。登録患者のうち中卒者は男性一四・七%、女性一六・三%。二〇〇〇年以降の一般的な高校進学率は約九六%ですから、中卒者が極めて多いといえます。
社会との関係を発信
―調査の今後
調査班は今年六、七月に再度、登録患者の断面調査を行って病態の変化を統計学的に解析し、今秋以降に最終的な調査結果をまとめる予定です。
非正規雇用・長時間労働など働き方の問題や、生活保護受給率の高さ、低学歴の傾向と、肥満や糖尿病の発症・増悪との関係を明らかにするのが目的です。さ らに、糖尿病と「ヘルスリテラシー」との関係も検討し、糖尿病の療養を支援する方法を探りたいと考えています。調査結果は日本糖尿病学会などで発表し、広 く社会に発信します。
最後に注意を喚起したいのは、登録患者の糖尿病網膜症の評価で一四%(一〇二人)が「不明」となっていることです。もし、網膜症の比率が評価されている 者と同様であると仮定すると、一一人が視力障害を起こす危険性があるまま、放置されていることに。少なくとも「不明」の人には至急眼科受診を勧めるか、眼 底検査を受けてもらうような対応が必要です。
表3 登録患者の概要2(社会背景など) ■診断のきっかけ 健診51.7% 眼科で診断2.5% 眼科以外の病気で診断30.5% 高血糖の症状19.0% その他10.7% |
(民医連新聞 第1541号 2013年2月4日)