国民の新しい運動が広がるなか新自由主義の“再稼働”が始まった 総選挙の結果をどう見るか、社会保障はどうなるのか ~渡辺治さんの講演から(上)
昨年末に行われた総選挙では、二〇〇九年に歴史的な政権交代を実現した民主党が大敗し、自民党が〝大勝〟しました。自公両党で、 衆議院では憲法改正を発議するのに必要な三分の二の議席を占めるまでに。この結果をどう見たらいいのか、安倍政権のもとで社会保障はどうなるのか、一橋大 学名誉教授の渡辺治さんの講演から考えます。全二回。
総選挙で自民党は二九四議席を獲得する〝大勝〟でした。議席数では〇五年の小泉郵政選挙や、〇九年に民主党が政権交代した時に匹敵しますが、政党の自力を示す比例代表選挙での得票率は二七・六%で、一〇ポイント超も低い(図1)。国民の支持を広く集めたとは言えないのが安倍政権です。
低得票率でも〝大勝〟した理由の一つは、小選挙区制で民主党が大敗したことです。〇九年の総選挙で民主党は、「貧困と格差」を広げた小泉内閣の構造改 革・軍事大国化からの脱却を掲げ、得票率を一一ポイントも伸ばして政権に就きました。
しかし民主党は財界やアメリカの圧力に抗しきれなくなり、「普天間基地県外移設」を捨てた鳩山内閣は倒れ、その後の菅・野田内閣は社会保障切り下げ、消 費税増税をすすめる構造改革路線に戻りました。国民を裏切った民主党は一六%まで得票率を下げました。
▼国民の声は無視できない
自民党が議席は得ても支持を伸ばせなかったのは、国民の中に、かつて彼らがすすめた構造改革への不信感があるためです。自民党は選挙戦で、国民の反発を 気にして原発再稼働もTPP参加も消費税増税も曖昧にしました。野田内閣を退陣に追い込んだのは、「原発もTPPも消費税増税もいやだ」という国民の声と 運動です。自民党もそれを無視はできません。
保守二大政党制は劣化しています。七割前後で推移していた自民・民主両党の合計得票率は一〇年の参院選で五五%、今回は四三%と半数を切りました(図2)。二大政党いずれかの単独政権では、構造改革・軍事大国化はできないことが明らかになりました。
いま支配層が狙うのは「保守連合政治」です。安倍政権は、連立相手の公明党のほかに、課題ごとに維新の会や民主党、みんなの党…と、相手を使い分けて組むことになるでしょう。
支配層は、維新の会に保守二大政党から離反した票が保守の枠にとどまる保険政党の役割を求めています。構造改革路線を否定し、民主党に裏切られた人たちが共産党や社民党など革新勢力にいかないように、です。
▼新自由主義の第三期に
日本の政治は、新自由主義政治の第三期に入りました。第一期(一九九〇~二〇〇六年)に小泉内閣が自衛隊海外派遣や構造改革を推進。その矛盾が噴出し、 反貧困、反構造改革の運動で新自由主義政治が停滞した第二期(〇七~一二年)を経て、安倍政権で本格化した第三期は、財界・アメリカの強い期待を受け、構 造改革・軍事大国化の大攻勢の時代です。
しかし、国民は小泉構造改革で暮らしを破壊され、すでに一度「NO」を突きつけていますから、第一期のように一気にすすむとは思えません。消費税増税を すすめたい財界は大攻勢をかけてきますので、これに終止符を打つ運動が必要です。
この間、脱原発や反TPPの運動がかつてなく広がりました。しかしそれが目に見える形で総選挙の結果に結びつかなかった。小選挙区制の弊害とマスコミの 意図的な報道による無視の影響は大きいです。同時に、運動のなかで「これを実現するためには革新政党が増えなければダメだ」という点が十分に語られなかっ たのではないか。新自由主義・軍事大国化に対抗する政治の道が国民に見えなかった。
新しい政治の萌芽もありました。東京都知事選です。「脱原発」一点の共闘だけではなく、「政治を変える」ことをめざした宇都宮健児さんが立候補し支援の 輪が広がりました。政治を変える争点と軸を、有権者に見せることができました。(丸山聡子記者)
(民医連新聞 第1541号 2013年2月4日)