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民医連新聞

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相談室日誌 連載364 生活保護制度がなかったら… 岡野恵美(広島)

 今や「会社勤務」でも生活は保障されない?
 Aさん(五〇代、男性)は、糖尿病で当院に近いクリニックに通院していた方でした。会社から解雇を宣告され、「保険や今後の生活について何から手をつけ たら良いのか分からない」と、相談室に来ました。話を聞くとひどい雇用実態が見えてきました。
 Aさんはある日、経営者から「会社はいずれ倒産する」と通告され、他部署への異動の辞令を受けました。Aさんは退職を申し出ると「退職するなら三〇万円 払え」と脅されたそうです。なぜ払わねばならないのかを聞いても「最初の契約書に書いてある」の一点張り。仕方なく異動を受け入れると、給料は日払い制に されました。多い時で月二〇万円、少ないと月五万円になる時もあり、年収は二〇〇万円以下の状態に。その後、異動先の部署が閉鎖になり、Aさんは解雇され たのです。
 来院した際に医師はAさんに入院を勧めました。しかしAさんは「入院と言われても、今は医療費が払えない。これから仕事を見つけて働きたい」と拒否しま す。その話しぶりからは、不安があふれんばかりでした。また、会社の倒産で健康保険証が使えなくなることや、今後の生活への心配も口にされました。
 SWはAさんの不安に寄り添いながら、収入状況や生活のひとつひとつの問題を確認。クリニックの医師からも生活保護の利用をすすめ、申請を決意されまし た。Aさんは理不尽な人事、一方的な解雇通告、そしてそうなった自分が頼れる社会資源が生活保護しかない、という現実に納得がいかないようでした。
 日本社会では長年、労働者を雇った企業が社会保障制度の肩代わりといえる役割を果たしてきました。昔は福利厚生の良い企業が多くあったものの、今は労働 者に国民健康保険への加入を強いる場合も少なくありません。社会保障制度の切り捨てもすすみ、定職についていても弱い立場の人が増えているのが現状です。
 こんな社会では、安心して生きていけるはずはありません。SWには相談者に代わって社会に問題提起していく力が求められている、と強く感じた事例でし た。 次回から、生活保護制度が存在する意味をいっしょに考えていけたらと思います。

(民医連新聞 第1541号 2013年2月4日)