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民医連新聞

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職員不足で転倒など多発 ハンセン病療養所はいま

 国の強制隔離政策で苦難を強いられたハンセン病元患者の人たち。2001年の熊本地裁判決で勝訴したにもかかわらず、療養所の暮 らしは劣悪で、またも「生きる権利」を脅かされています。残された人生の尊厳を守るために、元患者たちは「命をかけたたたかい」も辞さない構えです。(丸 山聡子記者)

大幅削減やめ増員を

 現在、全国一三の療養所の入所者は二〇六七人、平均年齢は八二歳です。国は憲法違反とされた強制隔離政策の誤りを認めて謝罪し、名誉回復や啓発活動、在園保障を約束しました。しかし、療養所の暮らしは「生きていて良かった」とは言いがたいものです。
 入所者は重い後遺障害を抱えており、手厚い看護、介護が必要です。しかし国は、閣議決定した国家公務員削減計画を療養所にも適用し、職員を減らしていま す。退職者の補充はなし、期間職員を正規採用せず、低賃金で据え置き。四年前に一九八〇人いた国立療養所の介護職員は、三五〇人以上減らされました。高齢 化する入所者の看護・介護は追いつきません。

食事介助の手が足りず

 全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)の神(こう)美知宏会長は昨年、一三の療養所 を回り、実情を調べました。夜中にコールしても職員が来ず、自力でトイレに行こうとして転落・転倒し、骨折する。職員が不足しているため、午前四時から朝 のケアが始まる…。誤嚥性肺炎による死亡も増えています。「目も手指も不自由な人には、ご飯とおかずを全部どんぶりに盛って与えられる。食事介助者が足り ないので、口を近づけて“犬食い”するしかない。悲しい光景だった」と神さん。
 医師・看護師の欠員もあり、外来看護師が複数の科を掛け持ちすることも。「重度の障害のある人は不安感が強く、日によって職員が違うのは大きなストレス」と神さんは指摘します。

昨年11月に集会

 昨年一一月、「ハンセン病のいのちと向き合う」と題した集会が東京都内で開かれ、約五〇〇 人が集いました。神会長の報告に続き、岡山にある療養所・邑久(おく)光明園の青木美憲副園長(医師)がハンセン病の特徴について講演(別項)。青森の松 丘保養園の職員が、高齢化で不自由度は増しているとして、「夜間当直は二人。離床センサーが一晩で六〇回以上鳴る」と報告。「介護の職員と入所者は家族の ような存在。人権を守るたたかいを無駄にしたくない」と訴えました。
 ハンセン病違憲国賠訴訟全国原告団協議会の谺(こだま)雄二会長は、「裁判後の一一年間、国は何もしてこなかった。再び私たちを『病み棄て』にしようと している。悔しさと怒りでいっぱい」と話し出し、重い後遺障害はハンセン病そのものによるものではなく、治療も食料もなく、看護から衣食住すべての作業を 強いられて悪化した結果だと指摘。「国の政策で不自由になった私たちの生きる希望が奪われている。人間としての尊厳を」と訴えました。
 昨年八月、小宮山厚労相(当時)は、「職員の大幅減に歯止めをかける」と表明。しかし、予算措置など具体策は明らかにしていません。全療協は今月~三月 にかけて、全国で座り込みなどの行動を予定し、ハンストも辞さない構え。集会では、ハンストを決意している入所者三人(八六~九六歳)が発言。中絶を強要 された玉城シゲさんは「人間であって人間でなかった。国はこの苦しみを知っているか」と語りました。
 また「国家公務員の定員削減の対象からハンセン病療養所を除外し、看護師・介護員の大幅増員を図ること」「賃金職員(※期間職員)を直ちに正職員化する こと」を国に要求する決議文が採択されました。

〔青木医師の話〕

重篤な後遺障害 手厚い看護・介護を

 ハンセン病の後遺症には、目や手足など複数の部位に生じる、麻痺は運動麻痺だけでなく知覚麻痺や自律神経麻痺もある、という二つの特徴がある。
 障害が複数だと他の機能で補うことが難しい。視力障害だけなら壁を手でつたって歩行できるが、手にも知覚麻痺があるので壁を叩いて歩く。壁に血が染みつ いている。目も手指も不自由だと、食事の際は口を食器に近づけるしかない。加齢の影響も受けやすい。
 知覚麻痺の足ではバランスが取れず、転倒しやすい。けがや熱傷を負っても麻痺のため気付かず、化膿して潰瘍になり、変形する。口頭に変形や麻痺があり、 異物が入り込んでも気付かず誤嚥する。誤嚥性肺炎で多くの人が亡くなっている。
 発汗機能が低下し、冬は湿疹ができやすく、夏は汗を大量にかく。入浴・着替えが有効だが、職員不足から入浴は週三回しかない。
 認知症も増え、当園では半数以上。重症者への体制がなく安定剤を多用し、昼間からウトウトしている。
 入所者は強制隔離政策のもとで壮絶な人生を強いられてきた。その人生の最期の時期。尊厳を守られた生活を保障するためには、手厚い看護・介護が必要だ。

(民医連新聞 第1540号 2013年1月21日)