相談室日誌 連載363 Aさんの行き着く先は 加賀谷ふみ(秋田)
金曜日の夜一〇時過ぎ、救急外来の医師から当院相談室の管理者に連絡が入りました。「生活保護を受給中だと言う県外の人が来たが、詳細不明なので相談にのってほしい」。
この時の患者がAさん(六〇代男性)。右心不全の診断で当院に入院になりました。Aさんには秋田での生活歴があり、やはり心疾患で当院に通院経験があっ たことも判明。手術の予定を立てましたが、連絡が取れなくなった患者さんでした。
Aさんは関東で生保を受給していたものの、住んでいたアパートが全焼する火事で入院。その後、以前落とした身分証を取りに、秋田に来たとのことでした。 身分証は、関東に戻って資金を得て、宮城県で震災復興支援の仕事につくために必要だと説明しました。
Aさんが生保を受けていた自治体の福祉事務所に連絡すると、Aさんは火事の後、入院していた病院から失踪。その後、居場所を見つけて宿泊所を紹介する も、本人が利用を拒否され、生保受給の意思も無かったため受給廃止にしたとのことでした。
それを踏まえ、もう一度Aさんと話してみました。今度は住んでいた市からは転出した状態であり、宮城県に住民票を置いて国保に加入し、病院の医療費を支払うのだと言います。
秋田市福祉事務所に今までの経緯を説明し、あらためて相談しました。Aさんの了承を得て、生保の担当者が来院し面談。しかし生保申請の意思が確認でき ず、申請には至りませんでした。結局、Aさんは「行旅病人及行旅死亡人取扱法」の対象として治療しました。
無保険状態、住所不定でお金もなく、家族や知人にも一切の関わりを拒否された今回のケース。各地を転々として暮らしてきたAさんの生活はどんなものだっ たのか、何を思って生きてきたのか。独りで生きてきたAさんの話は、現実離れしているようにも感じられました。
最近は、身寄りがなかったり、またあっても関わりを拒否されるケースが増えています。今後も目の前にいる人に寄り添える支援をしていきたいと思います。
(民医連新聞 第1540号 2013年1月21日)
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