介護報酬改定後の影響調査 どんな困難が起きているか― 全日本民医連 林泰則理事に聞く
訪問介護の生活援助時間の短縮が、現場にどう影響しているのか、約三〇〇の事例報告から浮かぶ問題点を、林泰則全日本民医連理事に聞きました。
■生活の後退、状態悪化も
まず、利用者の生活への影響です。「ヘルパーの調理時間がなくなり、配食サービスに切り替えた」という報告がありました。調理や掃除・洗濯など生活の基 本の支援時間を削ったのですから当然ですが、生活の質の後退がみられます。
またヘルパーと利用者がいっしょに家事をすることも困難になっています。「いっしょに行う家事」は、厚生労働省が重視する「自立支援」の象徴的な支援ともいえますが、これにも逆行するわけです。
加えて、ヘルパーと利用者の会話が激減。「利用者の状態が変化しても気づけるのか」という不安がヘルパーから出されています。
利用者の状態悪化も報告されています。身体的負担やストレスの増加、病状の進行や閉じこもり傾向などです。「ヘルパーに洗濯物を干してもらう時間がなく なったので、利用者自身が干すことにしたら、作業中に転倒して骨折する重傷を負った」という事例も。
また利用者だけでなく、家族の身体的・精神的負担の増加も指摘されています。介護保険創設時にうたわれた「介護の社会化」の理念はどこにいったのか。
経済的負担も重くなっています。援助時間が短縮されては、たちゆかない利用者もいるのです。支給限度額をオーバーした分の介護サービスは、本人や家族が自費で負担することに。
■特定の層がより困難に
事例報告を読んでゆくと、改定の影響で、特定の「困難層」が生まれているとみられます。困難事例が集中したのが、ひとり暮らし。また介護度が軽く判定さ れる認知症や、重度の寝たきり。そして、低所得世帯などです。この状況を利用者も家族もあきらめてしまい、困難が潜在化しているのも特徴です。
介護を提供する側の事業所や介護職にも、もちろん影響が。事業所の経営は悪化、ヘルパーでは収入減や、「細切れ・駆け足」介護、無償労働をせざるを得ない人も出ています。
■改定をどう見る
今回の改定は、介護報酬引き下げと時間短縮がセットにされました。厚労省は「いままで通り の時間でサービス利用は可能」とだけ説明し、事業所の収益減には触れません。「介護時間の短縮」か「収益の減少」かの二者択一を、利用者と事業者に求め、 両者の間に分断を持ち込みました。
生活援助の総報酬削減は、将来、生活援助を介護保険から外すための助走です。洗濯に○分、掃除○分といった「行為別」の考え方の導入も、生活援助を市場サービスやボランティアに移し替える布石とみられます。
ヘルパーが行う生活援助の専門性の否定、労働条件のさらなる切り下げにもつながる危険性があります。
■たたかいの方向性
高齢化に向かって走っている国がとる施策とは思えない改悪が行われました。
私たちは、この困難事例調査とともに、「利用者・家族のひとことカード」一〇〇〇枚と、民医連外の事業所が数多く回答した一三〇〇件の「事業者アンケー ト」を集めました。これらをまとめ、改善要求として年明けの新しい国会にぶつけようと考えています。
(民医連新聞 第1538号 2012年12月17日)
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