2012年介護報酬改定が現場から奪ったもの ヘルパーさんは在宅利用者の「命綱」 東京・共立医療会
半身マヒの戸塚さんの場合
「ヘルパーが布団を干す時間がなくなって、身体に湿疹ができてしまったんです」―。きょうりつヘルパーステーションの長田(おさだ)勝子さんは、訪問先の戸塚初(はじめ)さん(八〇歳・男性)宅で調理をしながら話します。
戸塚さんは脳梗塞による左半身マヒで、要介護1と認定されています。独居で身寄りもいません。そのためヘルパーの訪問は生活をささえる大事な時間でした。
しかし今回の介護報酬改定で、訪問介護の生活援助の時間が九〇分から六〇分に短縮されました。週二回、六〇分の訪問だけでは、身体の自由がきかない戸塚 さんには十分な支援になりません。ヘルパーが限られた時間でどんなにがんばっても、買い物や洗濯、掃除など「最低限」を優先せざるを得ず、布団を干す時間 の確保までは難しいのです。
戸塚さんは四月以降「一番困ったのは買い物だよ」と語ります。以前はヘルパーといっしょに買い物をする時間がありました。ところが今は一人が増えました。
近くにスーパーはありません。左半身マヒの人にとって一人で二〇〇メートル以上あるバス停まで歩き、帰りは買った物を自宅まで持ち帰る作業は容易ではあ りません。おまけに入居する7階立ての団地のエレベーターは4階と7階にしか止まらず、戸塚さんが住む3階には止まりません。一人での外出には高い転倒リ スクが伴います。
「買い物に出て転んだこともあるよ」と戸塚さん。生活援助の時間短縮は、高齢者が安全に生きることまで奪っていると痛感しました。
また、外出の機会が少ない戸塚さんにとって、ヘルパーとの会話は貴重なひと時でした。しかしこの日も長田さんは洗濯と調理に追われ、戸塚さんとゆっくり 話せませんでした。長田さんは「ヘルパーは利用者と心を通わせる仕事。利用者の思いに寄り添えないなんて、なんのための介護制度なんでしょう」と怒りまし た。
介護報酬が改定された後、「生活援助の業務に余裕がなさすぎる」という声は全国からあがっています。戸塚さんのケースは珍しくないのです。
介護保険外の「オプション」サービスの提供を始めた事業所もあります。しかし自費のサービスには経済的な負担という問題が発生します。長田さんのステー ションでも利用者の希望で、どうしても必要な場合にサービス時間を追加します。なるべく価格を抑える努力をしていますが、これでは結局、利用者にも事業者 にも負担です。
事業所も厳しい経営に頭を悩ませています。それでも法人介護事業部長の二木多美子さんは「経済的に困難な高齢者が増える中で、民医連のヘルパーステー ションは地域になくてはならないですから」と。そして「介護保険制度が改悪されて苦しいですが、介護の専門性を発揮できる職員を育てることを大切にした い」と語りました。同法人では、若手の常勤採用や養成に力を入れています。
介護職の専門性を切り捨て
生活援助の時間短縮には、もうひとつ重大な問題があります。介護職の専門性の切り捨てです。ヘルパーの仕事は利用者さんの「お手伝い」ではありません。利用者と日常的に関わり、身体状況や生活環境を把握し、場合によっては医療や他の介護事業所と連携をとります。
ケアマネジャーの山口みくにさん(ケアプランセンターきょうりつ)は「利用者の情報を一番把握しているのはヘルパーです。そこから医療の介入の判断やケ アプラン作りをしていました。ヘルパーに余裕がなくなった今、情報収集も難しくなっている」と訴えます。
きょうりつヘルパーステーションのサービス提供責任者・大川幸子さんも今回の改定に納得していません。「ヘルパーの援助は業務だけではないということ を、国は見落としています。お金がある人だけが介護を受けられるような社会にしてはいけない!」。
二木さんや長田さんたちの職場では、全日本民医連が呼びかけている介護改善署名や利用者の声の聞きとりを活発に行っています。
(民医連新聞 第1538号 2012年12月17日)
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