相談室日誌 連載359 生活保護申請を却下され死を選んだAさん J.Y
Aさんは、申請していた生活保護が却下されたという福祉事務所からの知らせを聞いたその日に自殺しました。
Aさんの体調に異変が起きたのは一年前。片腕の痺れや脱力感が出て、発語も困難になりました。脳梗塞を疑う症状でしたが、医療機関には行かず、耐えてい たそうです。失業して国民健康保険料が支払えず、無保険状態になっていたからです。しかし、今年に入ってから症状はさらに悪化。治療費に困っている人向け に窓口負担を減免する無料低額診療事業がある、と聞きつけ、ようやく私たちのもとに相談に来られました。
検査や診察をした結果、医師は「入院が必要な状態」と診断しました。相談室で世帯の経済状況を聞き取る中で、収入は息子さんの少ない給与だけで、生活保 護規準以下の生活を余儀なくされていたことが判明しました。すぐ地域の支援団体(生活と健康を守る会)にも同行してもらい、福祉事務所に生活保護の申請を 行いました。結果を待つ間も、医師は入院をすすめましたが、ご本人は「生活保護の通知がまだ出ないから」と、がまんされていました。
ところが、ようやく来た結果は却下。行政はその理由を、「家族がもっと働けるはずだ」としました。Aさん一家の状況は、私たちが聞き取った事情から考え ても行政がいうほど簡単にいかないのは明らかでした。ご本人の無念を思うと、言葉も出ません。
民主・自民・公明三党が提案し今年八月に国会で採決された「社会保障制度改革推進法」が掲げた生活保護制度の改正方向には、「就労困難でない者に対する 厳格な対処」が盛り込まれています。今回の行政の対応は、その先取りのように思えます。まさに「福祉が人を殺す」。
Aさんの自殺はショックでした。その前に連絡してくれれば何とかできたかもしれない、と思うと、SWとしての自らの力量の無さを感じざるをえません。残 された家族の援助と、故人の無念を社会に訴えることが私の役割かもしれない、と考えています。
(民医連新聞 第1535号 2012年11月5日)