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民医連新聞

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第11回看護介護活動研究交流集会in徳島 記念講演 秋葉英則さん 看護・介護職の魅力を探る 誇れる自分を発見しよう

 看介研の記念講演では「看護・介護職の魅力を探る」と題して大阪健康福祉短期大学の秋葉英則学長が講演しました。秋葉さんは教育者として、また自身の患者体験もふまえながら、看護・介護職の置かれている状況と、利用者から求められていることを語りました。

幸福の担い手の仕事

 看護・介護職の魅力を探るうえでキーワードは生活・幸せ・権利の三つです。一つめの「生 活」です。東日本大震災では、岩手・宮城・福島の太平洋沿岸に認可を受けた公立・民間の一〇〇〇カ所の保育園での犠牲者は一人もいませんでした。保育園で は毎月一回、避難訓練が行われていたのです。避難訓練の義務のない大学では多くの犠牲者が出ました。
 被災地のある保育園の先生の話を聞いて、涙が出ました。震災時、その保育園では五歳児がゼロ歳児を抱えて避難したそうです。しかし年長児でもゼロ歳児を ずっと抱える力はありません。そんな中で「交代、順番」と言いながら、みんなでゼロ歳児を運んだそうです。日々行っている「生活」が命を救ったのです。
 二つめの「幸せ」について。看護・介護の上位概念は福祉です。福祉は辞書をひくと幸福の意味です。戦前は天皇のために死ぬことが最大の価値で幸せだとさ れました。戦後は日本国憲法一三条の幸福追求権や生存権の二五条が制定されました。みなさんが行っている、福祉労働は国定された「国民の幸せを追求する仕 事」なのです。
 三つめは「権利」。一九七九年の国連総会で健康に関わる決議が出され、健康を司る概念が提示されています。水資源の確保や生涯、働き続けられる環境をつ くることと併せ、科学の成果を全人類のものにして平和を作ることです。その平和の実現は、社会的労働を通して作ること。その中心的な役割が福祉労働だとさ れました。福祉の反対は戦争です。それを象徴している国はアメリカです。福祉政策が一番遅れている一方で、いつも他国で戦争をしています。

「ありがとう」の重さ

 介護の仕事で一番大変なことは何でしょうか。食事・入浴・排泄の三つのうち専門家は食事介助だといいます。
 私の大学では入学一カ月後から、現場実習を行っています。ある学生は八八歳の女性の食事介助を任されました。しかし、女性には食べてもらえず、学生は悩 みながらも介助を続けました。落ち込んで帰りかけた学生に、この女性は「また、来てや~」と声をかけました。食事はうまくいかなくても学生の思いは届いた のです。
 介護は重労働なうえ、決してきれいな仕事とは言えません。最近、定員割れしている大学が多いですが、介護分野では定員の半分にも届きません。社会的地位の低さの反映です。
 しかし毎日「ありがとう、ごくろうさん、さようなら」といわれる仕事でもあります。「ありがとう」という言葉は相手を尊重する、非常に重いものです。か けがえのない命を守る、看護・介護に従事する人たちの心をささえています。

「もう一度会いたい」人に

 人間は他者に依存しながら自立する存在です。介護職が利用者から求められるのも「自尊感情」だと思います。相手の存在を尊いものと思って接することです。
 阪神大震災で被災した八〇代の女性のカウンセリングをしたことがあります。そのとき女性は「ボランティアの人はありがたいけど帰り際に『おばあちゃん、 がんばって』と言われるのは辛い」と不満そうに話していました。
 がんばっている人に「がんばれ」では励ましにはならないのです。人はがんばっていることを他者から評価されなければ生きていけないのです。
 私がみなさんに伝えたいのは「生活」「幸せ」「権利」の三つを軸に、学んだことを看護・介護の職場で生かすために玄人になってほしいということです。玄 人の語源は中国の五行説が由来で、熟達したプロフェッショナルを意味します。
 そこで心理学の方法論で、現代社会で玄人と言われている人の性格を考えると次の三つの力がありました。
 一つは生きる事に執念を燃やしていることです。つまり健康に生きるということ。二つめは何事もこだわって生きるということ、科学です。三つめは「もう一 度会ってみたい」と相手に思わせる人間的な魅力を持っていること、人柄です。
 民医連綱領を大切にしながら、福祉労働者として誇れる自分を発見し、生涯一途に働きつづけてほしいです。


(あきばひでのり)

 福島県生まれ。東北大学教育学部卒業。教育学博士。大阪教育大学教育学部教授、副学長など歴任。現在大阪健康福祉短期大学学長。『人に惚れて人になる』『シリーズ・子どもと保育5歳児』など著書多数

(民医連新聞 第1534号 2012年10月15日)