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民医連新聞

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いのち守る共同をいま 脱原発 勇気を出して“最後の一滴”に 長野県上伊那郡中川村 曽我逸郎村長

 TPPや構造改革、原発など、国民の命にかかわる問題が山積しています。全日本民医連はこれらの打開のために、多様な人たちと 「いのちを守る共同行動」にとりくもうと全国の仲間に提起しました。共同の可能性を考える連載、今回は長野県上伊那郡中川村の曽我逸郎村長。曽我さんは 「脱原発を目指す首長会議」に参加し積極的に発言。長野県民医連のピーチャリや脱原発デモにも駆けつけ連帯の意を寄せてくれています。長野県民医連新聞の インタビューを紹介します。
(聞き手/小林千里・新家かず美編集委員、「長野県民医連新聞」 七月二五日号を転載)

原発は誰かの犠牲の上に

 大飯原発再稼働は「理解に苦しむ」という一言に尽きます。福島の事故でいまだに多くの方が 大変な生活をされています。その方々を放置しながら、元になった原発を稼働させるという考えがわかりません。「自分の責任で」という首相も責任の取りよう がないのは福島を見れば明らかです。
 高齢者や病人を理由にしましたが、その方たち以外で夏の数週間、午後のピーク時だけ一五%節電すればすむ話です。中部電力武豊(たけとよ)火力発電所の 所長は、テレビ放送休止を提案しましたね。コンビニも週替わりで営業するなど、無謀な再稼働より、徹底した節電計画立案にとりくめばいいのです。

―原発には以前から疑問をお持ちだったのですか?

 原発はウランを採掘する人、原子炉で働く人、近隣住民の被曝という犠牲の上に成り立っています。使用済み核燃料は十万年という単位で人類を脅かします。誰かに危険を押しつけながらの贅沢や便利さはおかしいですよ。
 広告代理店に勤務していた時、電力会社の担当を命じられましたが、原発のPRをするのは嫌だからと断りました。上司に「お前も電力のおかげで生活してい るじゃないか」と責められましたが「原発依存分の三〇%を節電します」と、エレベーターを使わないなどしました。節電はそんなに大変ではないです(笑)。

―自然エネルギーの活用は、中川村ではいかがですか?

 村の施設や災害時の避難所に太陽光パネルを取りつけていますが、今のところ代替エネルギーは考えていません。国や大学、大企業で研究したもので、村に合う方法を取り入れたいと思います。今は、これまでの電気の使い方を見直す時だと思います。

―福島県飯舘村と交流されているそうですね

 「日本で最も美しい村」連合のなかまです。昨年に続き、今年も八月のどんちゃん祭りに来ていただき、昨年六月には私たちも飯舘村を訪れました。
 飯舘の菅野村長は「までい」(ていねいの意)な村づくりをすすめていました。若いお嫁さんをヨーロッパに研修に出して建築や畜産を学んでもらうなど、これまでにない農村をつくろうとしていました。
 私は村長として、中川村の温かな共同体が明日も変わらずにあることを大事にしたいと思います。しかし、放射能はそれを許しません。
 菅野村長は「除染をして二年で村に帰ろう」と言うけれど、一緒に村づくりをしてきた酪農家は「無理じゃないか」と。家族の中も、仕事か赤ちゃんかで意見 が分かれる。毎年、裏山の祠(ほこら)に近所の人が集まって、飲んで食べて笑いあったのに、そういう文化も伝統も仲間も家族も断ち切られてしまいました。

変わらないようで変化は起きています

 三・一一以降、これまで「空気を読んで黙っていた日本人」が声をあげるようになりました。多くの人が「再稼働はまずい」と思っている…それが今の「空気」です。黙殺していたメディアも報道せざるを得ません。
 大飯原発のゲート前の抗議行動も、これまでの福井では考えられない。統制がとれていて、雨にぬれる警官に傘をさしかけた人もいましたね。
 滴(しずく)がコップに溜まる時、途中には何の変化もありませんが、最後の一滴が落ちた途端ドッとあふれます。政治もそうではないでしょうか。変わらないようでいて滴は溜まり続けているのだと思います。
 私は『通販生活』という雑誌のアンケートで「全原発即時停止・廃炉」と答えましたが、少し過激にフライングしてみると、「あ、そうだな」と続く人が出ま す。それで政治が身近な、少しましなものになるかもしれない。
 民主主義は多数決ではありません。お互いに異論があってもそれを自由に発言できることです。みなさんの一歩がコップの水をあふれさせる最後の一滴かもしれません。勇気を持って恐れずに行動してください。

(民医連新聞 第1533号 2012年10月1日)