相談室日誌 連載355 原発労働者の就労実態と健康不安 片寄(かたよせ)ひで子(島根)
五〇代で独身のAさんは五年前から島根原発の孫請け事業所で、原発内の作業に従事していました。原発内では防護服や顔面マスクを着用。線量計も携帯し、 配管のバルブなどの点検・補修を行っていました。日給月給制で日当は比較的高いものの、三~四カ月働いては一時終了する働き方です。一年の半分は自宅待 機。昨年は福島第一原発から一〇〇メートル以内の現場で、防護服を二重に着て鉄板を敷く作業を三カ月。一日の労働時間は午前中だけに制限されました。
一〇月にいったん引き上げたものの、一二月~今年一月に再び福島へ。県内の立ち入り禁止地区で、放射線量測定の仕事をしました。その後、今年二~五月末 まで地元の原発で点検作業をした後、六月から仕事がなくなりました。
体調を崩したのは七月初めです。下痢が始まり、食欲低下。腹部全体が膨満し、両下肢にも浮腫が起きました。一週間後に当院の救急外来を受診し入院。精査 の結果「自己免疫性肝炎」と診断されました。この疾患の原因は不明で、自分の肝臓を壊す抗体が作られ、肝炎を起こすといわれています。治療で現在状態が落 ち着きつつありますが、退院後も肝炎の再燃予防のため、定期受診は欠かせません。
Aさんの疾患と放射線被曝の因果関係は分かりません。しかし、一般に原発労働者の一年間の被曝量は二五〇ミリシーベルト以下と国が規定し、この範囲なら 放射線障害は起きないとされています。Aさんにこの規定を上回る被曝量があったのかは分かりません。東京電力は内部被曝量の測定を全ての労働者に実施して いるわけではないため、事実は不明であり、関連づけの証明は困難です。
Aさんに貯蓄はなく、住民税や国保料の滞納もあり、短期証でした。高額な医療費の支払いや、会社の寮からの退去を迫られるなどで、相談室につながり、生 活保護を申請することに。生活基盤や仕事の再構築の支援をしてゆく予定です。原発の安全性の根拠が否定される中、そこで働く労働者の生活や医療保障がなお ざりにされてきたことを痛感するケースです。
(民医連新聞 第1531号 2012年9月3日)
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