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民医連新聞

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シリーズ 働く人の健康 ~原発労働~ 原発事故への備えなく 被曝しながらの作業は不可避

 被曝隠しが相次いで発覚している原発での労働。四次、五次、あるいはそれ以上とも言われる多重下請けにささえられています。その労働の問題点とは? 労働安全衛生学校で龍谷大学の萬井(よろい)隆令名誉教授が行った講演から考えます。

 東京電力福島第一原発事故直後の三月二四日、三号機で作業をしていた三人の作業員が放射能に汚染された水で被曝しました。三人のうち二人は長靴を履いておらず、くるぶしまで浸かりました。
 東電は当該作業区域の状況をほぼ把握していながら、自社の放射線管理員は入らせず、状況を知らせないまま非正規労働者だけを入らせたのです。

安全義務は電力会社に

 原発では作業遂行の可否、作業の時間・場所まで、電力会社の放射線管理員の指示に従いま す。法の解釈に議論のあるところですが、原発を運転する電力会社は、労働安全衛生法三〇条の二に基づき、すべての下請け業者の従業員について労災防止に必 要な措置を講ずる義務を負っています。
 原発内の点検や修理作業の前には、現場の放射性物質を除かなければなりません。例えば、配管がずれて汚染水が漏れた場合、配管接続作業は技術を持った二 次下請けレベルの企業が担いますが、その前に汚染水を汲み出し、汚れた床を雑巾で拭って放射線量を下げる作業は、四次、五次、それ以下の下請けの従業員が 行います。
 報道では防護服姿での休憩や食事を伝えられていました。それでは内部被曝は必至です。しかし、保安院の指導は事故から四カ月後のことでした。東電や下請 け会社は、内部被曝の対策をしていたのか。厚生労働省は監督・行政指導を怠っていたのではないか。

大事故への備えは何もない

 病院など放射線を扱い、被曝しながら行う労働には、電離放射線障害防止規則(以下、電離則)が適用されます。ところが大事故が起きた場合、電離則では実情に合わないケースがあります。
 例えば原発で事故が起こり、一〇〇〇ミリシーベルト(mSv)/時という大量の放射線量下で労働者が気を失い、退避できず、大量被曝が避けられない場 合、従来の電離則では放置する以外ありません。救出作業をする労働者の被曝の上限は年間一〇〇mSvで、作業が一五分でも二五〇mSvを被曝してしまうか らです。
 国際放射線防護委員会(ICRP)の二〇〇七年勧告では、救出作業は使用者の指示で行うのではなく、「情報を知らされた志願者」が行うべきで、その場合 は被曝線量の制限なくできるとしています。日本の放射線審議会では東日本大震災の前に、電離則をICRP勧告に沿って改めようと検討していました。
 ところが、その検討中に事故が起き、法の整備がないまま、従来の延長で使用者の指示で「緊急作業」が行われました。
 労働安全衛生法は労災発生の「急迫した危険がある時は、直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等必要な措置を講じなければならない」と事業 者に義務付けており、東電は全員退避を指示すべきだったことになります。しかし一方で、事故直後に撤退していたら、今以上の大惨事になったことは間違いあ りません。
 要するに、今回のような事故にどう対処すべきか、法的な備えは何もできてはいないのです。
 三月一五日、急遽電離則が改正され、年間の被曝量の上限が一〇〇mSvから二五〇mSvに引き上げられました。同時に、「緊急作業」の対象は、従来は 「労働者の救出」だけでしたが、「事故の制御」を追加。事故の内容も規模も収束までにやるべき作業も見通せない状況で「事故の制御」を加えたのです。上限 は元の一〇〇mSvに戻しましたが、「緊急作業」の対象は恒常化したままです。

隠蔽される労働実態

 原発での労働実態は把握しにくいのが現状です。労働基準監督官さえ、放射線管理員の許可と 同行がなければ作業現場に立ち入ることはできません。労働者は契約時に「知り得た情報(書面、あるいは口頭、目視など形態に関わりなく)は厳に秘密を保持 する」「報道機関からの取材には応じない」という誓約を求められます。
 高汚染区域での作業が続き、労働者の被曝総量は通常時と比較して桁違いに高くなっており、近い将来、多くにがんや白血病が発症することは必至です。原発 での労働において被曝は構造的に不可避ですが、がんや白血病などの発生を必然とする産業は、原発を除いては存在しません。

(民医連新聞 第1530号 2012年8月20日)

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