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民医連新聞

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相談室日誌 連載354 無低診で実感していること 五代儀(いよぎ)明子(青森)

 五〇代のAさんは、夫と息子との三人暮らし。精神疾患を患いながらも、当院への通院治療を続けながらパートで働いていました。しかし三年前から通院を中 断、その頃から「食材に毒が入っている、泥棒が入る」と、被害妄想が強くなり、外出もできなくなりました。息子さんは日雇いの仕事に時々行き、家にはあま り帰らない状態でした。会社員の夫が生活全般をサポートしていましたが、その夫が脳梗塞で倒れ、入院したことで、一家の生活は一変しました。
 Aさんは夫が買ってきたものは食べますが、息子さんが買ってきたものには「毒が入っている」と言って捨て、家にある玄米ばかりを食べていました。受診を 促しても強い拒否を示し、奇異な行動が増えました。なんとかAさんを受診させたいと息子さんが病院に相談に来ました。
 Aさんが受診を拒否していることから、医師と相談し、自治体の保健師に訪問を依頼。その結果、自傷他害などの緊急性はない、と報告がありましたが、Aさ んへの継続的な訪問については「難しい」と断られてしまいました。
 一家の生活は夫の収入だけが頼りでした。生活保護基準額をわずかに上回るくらいの傷病手当金は、夫の入院費でほぼ消えてしまいます。Aさんも入院になれ ば医療費の心配もありました。現状では他の制度を利用できないと判断し、Aさんが入院した際には、当法人で行っている無料低額診療制度を利用することに。
 その後Aさんは遠方にいる家族の協力を得て入院され、今は回復に向かっています。それまで「親に迷惑ばかりかけてきた」という息子さんも今、両親退院後 の生活基盤の建て直しに懸命にとりくんでいます。Aさんもまた、息子さんを頼りにし、面会を心待ちにするように。
 無低診が無ければ、Aさんは今も受診できていなかったかもしれませんでした。社会の隙間や制度の狭間で苦しむ人々を医療につなぐこと、それが無低診の持 つ意義なのだと実感しました。現在無低診は、受療権を守る最後の砦としての役割を全国で発揮しています。今後は、もっと行政を巻き込んだ大きな活動に発展 させていく必要があると思っています。

(民医連新聞 第1530号 2012年8月20日)