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民医連新聞

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いのち守る共同をいま “皆保険”脅かすTPP 日本医師会は反対です 日本医師会常任理事 石川広己さん

 原発対応や被災地復興、そして再び始動しつつある構造改革路線…日本の将来を左右する重要な問題が目白押しのいま、全日本民医連 は、願いで一致する多様な人たちとの「いのちを守る共同行動」を始めています。共同の可能性を連載で。今回は、TPP(環太平洋連携協定)交渉参加に反対 している日本医師会の考えを、同会常任理事・石川広己さんに聞きます。(木下直子記者)

■3月に見解を発表

 ことし三月、TPP交渉への日本の参加には反対だという見解を日本医師会は発表しました。 二〇一〇年一二月末にも、見解は出していたのですが、当時は「貿易の枠組みにまで意見する立場にはない」という姿勢で、「国民皆保険制度には手をつけぬよ うに」と、強く要望するにとどめていました。
 これには政権交代した民主党への期待も少なからずありました。社会保障を前面に掲げた政権は、これまでの日本には出ていませんでしたから。しかしその後 二年間の民主党の動きには、皆さんとともに運動した受診時定額負担の問題をはじめ、危機感を持たざるをえない要素が次々出てきました。米韓FTAの事例 や、TPP参加国の識者の見解からも、楽観視できないことが分かってきました。
 そこであらためて、日本医師会の意見を明確にしておこうと、TPP交渉参加への反対表明になったのです。

■「アリの一穴」も許せない

 アメリカ政府は「公的医療保険制度の廃止は、TPP交渉参加国には要求しない」と発言した とされています。しかしそう決まっても、協定の中ですすむ「金融サービス」や「投資」、「知的財産」などといった個別分野での規制改革を通じて、日本の医 療は揺るがされかねません。医療への株式会社の参入が決まったり、薬価決定などへの干渉が行われるようになれば、国民皆保険体制は形だけ残り、実質は解体 される恐れもあるわけです。そんな「アリの一穴」を防ぐために、TPPそのものを否定する必要がありました。
 アメリカはこれまでも、一九八五年のMOSS協議以降、様々な注文をつけてきて、日本に医療の市場化を求めてきました(表1)。それを今後TPPで持ち出してこない保証はないのです。また国内でも、医療の市場化に備えるような動きがすでに見られています(表2)。

■国民医療を守るために

 野田内閣は「原発の再稼働」「一体改革法案の推進」そして「TPP参加」の三本柱を掲げて います。再稼働の強行や一体改革を三党合意の下、文言を修正した形で通すといった手法をみても、首相がTPPの参加をいつ表明してもおかしくないと私はみ ています。国会に消費税増税法案とともに出された社会保障制度改革推進法案が、社会保障のあり方そのものを変えてしまうような踏み込んだ内容であることと あわせて、日本の医療制度を守るために、がんばらなければと考えています。
 日本医師会は“社会保障としての医療を守る”という立場を貫いています。思想や人脈には違いがあっても、私がほかの先生方とここで一緒に働けるのは、そこに国民医療を守るといった共通の理念があるからです。
 脱原発を求めて、官邸前に数万人の市民が集まる新しい運動も起きています。TPPは、必ずしもわかりやすい話題ではありませんが、患者・国民に粘り強く問題を語り広げていきましょう。


(表1)米国からの医療の市場化要望

1985年1月 市場志向型分野別協議…医薬品・機器分野で日本の医療市場の開放を要求
2001年10月 米国「年次改革要望書」…日本の医療に市場原理導入を要求
2010年3月 米国「外国貿易障壁報告書」…日本の医療サービス市場の外国企業への開放を要求
2011年2月「日米経済調和対話」米国側関心事項…新薬創出加算の恒久化、加算率の上限廃止、市場拡大再算定ルール廃止、外国平均価格調整ルールの改定
2011年9月米通商代表部「医薬品へのアクセス拡大のためのTPP貿易目標」…透明性、手続きの公平性、不要な規制障壁の最小化などを要求

(表2)医療の営利産業化にむけた国内の改革

2010年6月「新成長戦略」閣議決定…医療・介護・健康関連産業は日本の成長牽引産業
2011年
1月…医療滞在ビザ(医療ツーリズム)創設
4月…「規制・制度改革に係る方針」閣議決定し、医療法人と他の法人の役職員の兼務を検討開始
6月…総合特区法成立。特養に営利企業が参入
7月…「規制・制度改革に関する第二次報告書」公的医療保険の適用範囲の再定義、国際医療交流

(民医連新聞 第1530号 2012年8月20日)