「財源が厳しいから」と、負担増をあきらめる前に読むハナシ (1)「国家財政」とは何か―
消費税増税や社会保障の解体に向かって走る野田内閣。気がつけば野党のはずの自民党や公明党もこの課題では一致団結。「負担増は つらい。でも国の将来を考えればしょうがない?」「財政難なら耐えるしかないの?」。そんなモヤモヤを晴らすべく、財政問題に詳しい税理士・富山泰一さん が登場。国家財政や「負担の公平」について考えます。国民大運動実行委員会で行われた講演(七月一一日)から、四回シリーズで。
私は消費税増税に大反対ですが、この増税を食い止めても、なぜ日本で経済不振が続き、財政 危機になったのかの原因を考えなければ、日本は良くならないと思います。日本は所得(儲け)の「分配の不平等」と「再分配の不公平」が、世界でも突出した 国になっていて、ここを変えるところに打開の方向性がある。このことを暮らしや労働環境や社会保障を良くするために活動している人たちにも認識してほしい と思います。
ここをきちっと理解しなければ「社会保障には財源が必要で、それには誰もが同じ税金を払う公平な消費税が良い、消費税増税はもっともだ」とメディアなど から流れる論調に、何となく納得してしまうのではないかと思います。
税金の原則
政権交代後、民主党は、財政についての基本理念を表明しました。「歳出を先に決め、後で歳入を決めるこれまでの方法はバラマキで、放漫財政の元凶だ。民主党は税金をとることが先で、集まった税額に見合った歳出を決める」。
このパターン、財政学上は「入(い)るを量りて出づるを制す」と言います。しかしこれは「家計」の考え方で、国家財政に当てはめるのは間違いです。
国家財政の基本は「出づるを量りて入るを制す」なのです。国が国民に対して何をするかを示し、それに国民が納得して初めて、そのための資金(税金など) の集め方を決めるのが国家財政のたて方です。使い道を示さず、「税金を先に出せ」では、民主主義のない時代の「年貢」になってしまいます。
なお、財政は、国のあり方を表すものです。日本における税金の取り方と使い方の基本を示している法律は、日本国憲法です。
財政の機能
財政の基本的な機能は、(1)資源配分の調整(2)所得の再分配(3)経済の安定、です。中でも最重要なのが「所得の再配分」。財務省発行の『図解日本の財政』(平成二二年版)でもこう説明されています。
[具体的には、歳入面では所得税などの累進税率適用や資産課税によって、高額 所得者により重い負担を求め、実質的な所得分配を変化させること。歳出面では、生活保護や失業保険などの社会保障支出、あるいは就学援助や公営住宅などを 通じ、低所得者、社会的弱者により多くの経費を割り当てる所得分配が行われる]
これが、税制の本来の目的ともいえる機能です。
後の回でも述べますが、現在の日本の財政構造を見ると、税・社会保障の負担はフラットで、「低所得者ほど重く、高額所得者ほど軽い」という逆立ちの形に なっています。さらに歳出面でも、高収益企業、高額所得者や大資産家には様々な財政出動や減税で手厚い保護がある一方、弱者向けの施策は、生活保護抑制や 医療・介護などの社会保障抑制、失業保険の限定的支給など、説明とは真逆の状況がひろがっています。負担能力に応じた「分かち合い」のシステムが機能して いないのです。
富山泰一さん
不公平な税制をただす会代表幹事、日本租税理論学会、現代税法研究会会員。主な著書に『庶民増税によらない社会保障充実と震災復興への道』『消費税によらない豊かな国ニッポンへの道』など
(民医連新聞 第1529号 2012年8月6日)