相談室日誌 連載353 施設を転々としたAさん 有料ホームの介護は… 花木和美(大分)
「ワシはどこでも行くで。あんたたちの言う通りにせんと悪いからなぁ」。六年間で五カ所の「宅老所」を転々としたAさんの言葉です。今年、最後にいた施設で亡くなりました。
出会いは六年前、当院に救急搬入されたホームレスでした。宮崎で生活保護を受け、独居中だったAさんでしたが「別府の娘に会いに行く」と思い立ち、故郷 の大分に来たのです。背広を着こなし、お似合いのベレー帽姿。誰もAさんが認知症とは疑わなかったようです。
要介護認定も受けましたが、退院後の行先がなかなか決まりませんでした。そして決まったのは当時「宅老所」(以下「有料ホーム」)と呼んでいた施設で す。ところが一〇日も経たず、施設から退所してほしいとの連絡がありました。
その後も、Aさんは施設を転々とします。退所理由はそれぞれあり、集団生活を壊す、強い入浴拒否、施設側の一方的な都合のことも。三カ所目は入所者との トラブルでした。夜間、Aさんの部屋に間違えて入った利用者と、驚いたAさんがやりあい、相手が転倒し入院。認知症の人同士でしたが、夜勤職員は他の利用 者の介助中で現場には誰もいませんでした。
この事例で有料ホームの介護体制の厳しさを痛感。利用者についての話し合いはもちろん、状態に合わせて支援する余裕もありません。
また大抵の有料ホームは、併設のデイサービス等を入所者が利用する事で、介護体制や経営を維持しています。そのため、入所者に過剰な介護サービスを提供しがちです。
介護保険創設時、国は施設体制の基盤整備を不十分なまま見切り発車させました。そのシワ寄せが、有料ホームのあり方や介護体制の厳しさ等の問題として現れたと感じています。
大分市内の有料ホームは介護保険施設の不足を補うように増え、昨年四月時点で七〇数か所。特別養護老人ホームの定員を超え、医療機関にも患者の退院先の一つに定着してきました。
Aさんの事例は私たちに、「退院先が決まればそれで良いのか」「そこで暮らすのはワシらやで」と介護保険や有料ホームの抱える問題・矛盾を考えさせてくれました。
(民医連新聞 第1529号 2012年8月6日)
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