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民医連新聞

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水俣病 救済の継続と拡大を 大検診に1397人、87%に所見

 六月二四日、熊本、鹿児島両県で水俣病大検診が行われました(主催・不知火海沿岸住民健康調査実行委員会)。大規模健康調査は過 去三回ありましたが、今回は最多の一三九七人が受診。年齢は三〇代からと幅広く(表)、受診者の八七%に水俣病の所見がありました。この結果は、水俣病被 害者救済特別措置法の申請を七月末で締め切る政府の決定が、未だ救われていない多くの患者を見放す誤った方針であることを示しています。締め切り撤回を求 めるたたかいは続きます。(矢作史考記者)

shinbun_1528_01 六カ所の検診会場(地図)で、医師一四〇人を含む全国の民医連職員と、弁護士らボランティア約八四〇人が活動しました。記者は不知火海を挟み、水俣市の対岸に位置する天草市の天草中央保健福祉センターへ。
 この日は県内全域に大雨洪水警報が出る荒天。にもかかわらず午前九時の開始前から、待合室には多くの人が集まっていました。体育館のような検診会場に、 いすを並べた問診スペースと、シーツで仕切った二〇の診察室を設置。医師、看護師、事務などボランティアは約一三〇人です。検診前夜、水俣病の診察ポイン トをまとめたDVDを視聴し準備しました。
 天草地域のほとんどは特措法の対象外のため、申請者は有機水銀で汚染された魚介類を大量に食べた事実の提出が求められます。「食べた魚の量と、手足の感 覚障害があることが認定の大きなポイント」と熊本民医連会長の積豪英(せきたけひで)医師。問診を担当するスタッフも責任重大です。検診開始の直前まで、 手順を確認していました。

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「食べるものは魚だけ」

 検診では多くの人がこむら返りや手足の感覚障害、視野狭窄など水俣病特有の症状を訴えました。受診した天草市新和町(地図)の五〇代女性は「親戚から申請の締め切りが近いと知らされて来た。若いころから足がつった。友人も同じだったので、変だとは思わなかった。最近は金縛りみたいに体が動かなくなることもある」。
 上天草市姫戸の八〇代男性は「昔は貧しくて魚くらいしか食べられなかった。五〇歳くらいから水俣病のような症状が出てきた」と言います。海に囲まれた天 草で、住民の食事は魚中心。国が指定した狭い地域以外にも多くの水俣病患者がいる、と受診者の話から確信しました。
 検診への参加を「民医連綱領の実践」と話す川崎協同病院(神奈川)の和田浄史医師は「診察した一二人全員に所見がありました。衝撃です。水俣病には終わ りが見えない」。問診を担当した研修医の森達哉さん(東神戸病院)は、「山間部の住民もいて、水俣病が沿岸部から広がっていることを実感しました」と話し ました。
 診察を終えた受診者は弁護士の相談会や患者会の加入手続きへ。水俣病不知火患者会は、検診の呼びかけや会場準備で奮闘しました。「個人で申請するより、 患者会を通して集団で申請する方がささえ合える」と話すのは、水俣病の症状がある知人を誘った同患者会の前田弘道さん。
 政府の申請打ち切り方針に「できるだけお金をかけたくない姿勢の表れ。再び、患者を選別する方針は許せない。いまの時期でもこれだけの潜在患者がいる。 周囲の目を気にして受診できない人も多く、今後も国に救済の継続と拡大を求めていく」と語りました。

〔解説〕

申請打ち切りは誤り

 「水俣病被害者救済特別措置法(特措法)」にもとづく申請打ち切りで、同法が掲げる「あたう(なしうる)限り」の救済は果たせません。民医連が全国でとりくんでいる水俣病検診の結果も、新たな「患者切り捨て」になることを示しています。
 国は当初、同法による救済対象者を二万五〇〇〇人程度と見積もりました。しかし、今年五月までに申請した人は、熊本・鹿児島・新潟の三県で予想の倍以上 の五万五六九二人にのぼっています。その後も申請は続いています。
 一九七〇年から水俣病の診察と潜在患者の掘り起こしをしてきた「水俣病訴訟支援・公害をなくする県民会議医師団」(団長・藤野糺(ただし)水俣協立病院 名誉院長)は、不知火海沿岸一帯の地域ぐるみの汚染を明らかにしてきました。国が救済対象としていない地域や年齢の人たちにも、水俣病特有の症状があるこ とが分かっています。
 昨秋、不知火海沿岸から約六キロ離れた芦北町黒岩地区(地図参照、 標高五一四メートル)で実施した検診では、受診者四一人中三九人を水俣病と診断。すでに被害者手帳を所持している一四人と合わせ、同地区の住民(四〇歳以 上)七九人の六七%に水俣病の症状がありました。チッソが有毒な水銀を流していた時期、行商人から魚を買い、日常的に食べていました。沿岸から離れた別の 地域の検診でも同様の結果が続いています。国が漁獲禁止措置をとらなかったためです。
 藤野医師は「対象地域外も、行商ルートで汚染されていた。なんらかの救済制度を申請した人は計七万五〇〇〇人だが、転出者を含め、汚染を受けた人は二〇万人を下らないだろう」と指摘します。
 天草地域も同様です。救済対象地域はごく一部。漁師たちは対岸の水俣湾で漁をし、子どもたちは「(汚染されているとは知らず)プカプカ浮いている魚を手づかみで捕って食べた」のです。

  国は、患者団体や医師団の再三の要求にもかかわらず全住民健康調査を行っていません。そのため沿岸から離れた地域では、身体に異常がありながら、水俣病と思っていない人も少なくありません。
 医師団の分析では、救済対象地域の内外で、住民の自覚症状(手足のしびれ、こむらがえり、不眠)や神経所見(四肢末梢優位あるいは全身性の痛覚・触覚障害、運動失調)に有意な差異はなく、コントロール(対照)群との比較では有意差が見られました()。
 これらの症状は水俣病以外の疾患ではみられません。高岡滋医師(水俣・協立クリニック)は、「私たちや医師団が行った検診の結果は、対象地域外にも汚染 が広がっていることを示している。七月末までにすべての被害者が申請することは到底無理。申請を打ち切るべきではない」と言います。
 故郷を離れた人たちも深刻です。情報は届かず、病院で不調を訴えても「原因不明」とされます。約四〇〇〇人が移り住んでいると言われる近畿では、〇六年 から二七回の集団検診にとりくみ、外来診療と合わせ約一〇〇〇人を診察。ここでも対象地域の内外で自覚症状・神経所見ともに大差は見られず、受診者の八割 超に水俣病の診断が。集団検診では終わらず、受診待ちがある状態です。
 新潟水俣病でも救済申請者が五月に最高数を記録するなど、まだまだ知られていなかったり、差別を恐れる風潮があり、七月末の申請打ち切りは実態に合っていません。(丸山聡子記者)

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(民医連新聞 第1528号 2012年7月16日)