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民医連新聞

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見えてきた自院の特徴 医療の質向上に挑戦 船橋二和病院 千葉

 「医療の質の向上」をめざすとりくみの一環としてスタートした、民医連の「QI推進事業」。二〇一一年一月に五六病院で開始した 同事業は、今年度は民医連加盟病院約半数の七〇病院が参加するまでに。一方で、「QIって何?」という声も多く聞かれます。この事業に参加したことで、 「医療活動を振り返る機会になり、自院の特徴が見えてきた」という千葉・船橋二(ふた)和(わ)病院を訪ねました。(丸山聡子記者)

 QIとはQuality Indicator およびImprovementの略です。この事業で、自らの医療活動を評価・公開し、質の改善・向上を図ります。民医連として独自の医療指標(表1)を設定し、これに基づき医療活動を数値化します。私たちが日常的に行っている医療活動の「見える化」です。

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業務の負担どう減らす?

 「船橋二和病院はISO(国際評価基準)に登録していたため、院内に第三者評価事務局があ り、従来から医療の質向上を検討していました。民医連がQI推進事業を始めると聞き、さらなる改善に結びつけたいと参加しました」と話すのは、秋元司さん (現・千葉民医連事務局)。QI事業に参加した昨年一月から今年三月まで、同院医局で担当しました。
 多職種がかかわるため、「現場の負担をできるだけ増やさない」ことに苦心しました。必要なデータは可能な限り電子カルテから引き出し、拾えない指標は既 存のものを利用できるように工夫。民医連独自の指標である「職業歴」は問診票に項目がなかったため作り直しました。その結果、同院の職業歴の記載率(新規 患者のうち職業歴を記載している割合)は七八・三七%に(QI事業参加病院の中央値は三一%)。

抗生剤投与は99%

 QI事業参加後、著しく改善した項目は、「予定手術開始前一時間以内の予防的抗生剤投与割 合」です。昨年三月には九〇%だった割合が、半年後の九月には九九%に。「タイムアウト制」を導入したことがカギになりました。執刀前にスタッフ全員が手 を止めて患者情報や手術内容を確認するシステムで、抗生剤の投与も確実に行えるようになりました。
 「ヒヤリハットをなくすためにも、また、患者さんの術前術後の様子を把握するためにも、以前から導入を考えていました。QI事業への参加が追い風となり ました」と、手術室の樋口美智子看護師長。自院の数字を出し、他院と比較してみることで、医師をはじめとするスタッフの中に「改善のため、できることに チャレンジしよう」との気運が生まれました。
 抗生剤投与率が上がったほか、左右取り違えを防ぐなどの効果も。「手術直前の血圧低下で抗生剤投与より麻酔が先になることもありますが、そのことも含め て記録に残し、検証できるようになりました。数値化で客観的に評価できるようになり、井の中の蛙になりません」と樋口さん。
 一方、「現場で不評だった医療指標もあります」と指摘するのは、同院QI委員会の恩田奈緒美事務次長(理学療法士)。同院は産婦人科・小児科の入院患者 の割合が高いため、入院患者全体に占める「リハビリ実施率」の指標は低くなります。リハビリ職員からは「このカウント方法で、医療の質を判断できるのだろ うか?」との意見もありました。

自院の変化に着目して

shinbun_1527_02  冒頭の秋元さんの後任で、QI担当の向(むこう)淳さんは「データをとることで自院の特徴が分かってきた」と言います。船橋市は国保の資格証明書をほとん ど発行していないため、「社会資源活用により療養支援できた相談者の割合」の指標の資格証明書相談件数はゼロ。「数値に出なくても、中断患者や気になる患 者への訪問活動は活発。良い特徴も院内で共有し、活性化していきたい」と向さん。
 データを収集する過程で、「無保険」とカウントされた中に保険証を忘れて受診した人が入っていたり、外来窓口の多くがパート職員で、継続的にかかわれていないことも分かってきました。
 恩田事務次長は「データだけを見ると『ケアカンファレンスの実施割合』の指標は他院より低いが、現場では頻繁にやっているというのが実感です。民医連が 定める“多職種が参加した場合”というカウントの仕方によるものかもしれません。数値だけに一喜一憂せず、良いところは伸ばし、改善できるところは検討し たい」と話します。「他院との比較と同時に、自院での経年変化を見ることで、改善できたか、できていないのはなぜかを分析し、医療の質向上につなげられる のでは。そのためにも、まずは正確な数値を積み重ねていきたい」と恩田さん。
 同院では、測定の結果を院内の職責者会議などを通じて共有しています。さらに各部署からの提案で独自の指標も策定(表2)。改善・向上にとりくんでいます。

 


QI推進事業とは

 全日本民医連の「QI推進事業」は、それまでの診療情報管理委員会を診療情報活用・質向上委員会(QI委員会)に再編し、二〇一一年一月にスタートしました。第三九回定期総会(一〇年二月)で提起された「医療の質の向上」をめざす実践です。
 医療活動をはかる指標は七領域二八項目(表1)。具体的な項目や算出方法に、民医連の理念にかかわる試みをしているのが特徴です。たとえば、多くの医療 機関で指標となっている「褥瘡新規発生率」について、民医連は「一人の患者に複数発生した場合はその個数を算出する」ように定め、厳密に対策に結びつける ことをめざしています。
 他の医療機関にはない項目として、「人権尊重」領域の「医薬品副作用被害者救済制度申請数」や「社会資源活用により療養支援できた相談者の割合」などが 目を引きます。前者は副作用被害を見逃さず、制度利用による救済や制度の改善などにつなげることを志向しています。後者は短期保険証発行や無保険などの実 態から患者・地域の現状を把握し、社会資源の活用に役立てたい考えです。
 同様に、「生活と労働から疾病をとらえる」という民医連医療の立場から、「職業歴記載率」という指標も設けています。アスベスト被害のように疾病の背 景・原因を知る手がかりとなるものですが、記載率は三一%(中央値)と低く、今後の課題でもあります。

現場に気づきをもたらす

 QI推進事業は、一一年度から厚生労働省の「医療の質の評価・公表等推進事業」に採択され ています。民医連は地域医療再建の柱となる中小病院中心の団体として注目されています。ほかに国立病院機構などが参加。厚労省の事業に参加することで、国 民の健康権実現に向けて発信します。
 三月三一日には「QI推進事業二〇一一年報告会」を開催(本紙四月一六日号に掲載)。一年目のとりくみについて考察しました。
 同報告会で外部評価委員の猪飼宏氏(京都大学大学院医学研究所助教)は、「職業歴記載など民医連独自の指標がどう改善に結びつくか未知数だが、データを 出すことで現場に気づきをもたらしている。指標を積み重ねることで医療活動に目が向き、診療が変わり、全体の底上げにつながるかどうか。二年目の二〇一二 年の結果に出るだろう」と講評しました。
 新保卓郎氏(国立国際医療研究センター医療情報解析研究部長)は、「データの良し悪しにとどまらず、その背景や内容もよく検討され、すでに改善の兆しが 見え始めた指標もある。各病院での改善へのとりくみや試みを共有し、改善活動の評価を行うことが大事」と、事業に期待しました。

(民医連新聞 第1527号 2012年7月2日)