根拠崩れた「7月」打ち切り 水俣病患者救済で環境省交渉 民医連・保団連
環境省は、患者・被害者からの抗議にもかかわらず、水俣病特措法にもとづく患者救済を七月末で打ち切る姿勢を変えていません。 「国は加害者としての責任を自覚して、期限の延長と健康調査を」と、全日本民医連は全国保険医団体連合会(保団連)とともに五月三〇日、環境省に要請しま した。
要請には八人が参加。環境省からは特殊疾病対策室の三人が応対しました。両団体が求めたの は、(1)七月末の申請受付期限の延長、(2)不知火海沿岸部及び阿賀野川(新潟)流域の水俣病被害の全貌を解明するための住民健康調査・環境調査の実 施、(3)救済の対象地域と対象年齢を拡大し、補償給付と救済の対象とすること、です。
▼七月までの申請は不可能
同省の渡辺顕一郎・室長補佐(医師)が回答。受付期限について延長の考えはないことを明らかにし、「大臣が決断したこと。差別・偏見もあるが、心当たりのある人は、心を強くして乗り越えてほしい」とのべました。
環境省の理不尽な回答に対し、熊本・水俣協立病院名誉院長の藤野糺医師は、「水俣病の被害は国の責任によるもの」と強調。沿岸部から離れた地域での検診 でも住民の九割前後に水俣病が確認されていることを示し、「街中にもう患者はいない、ということはない」と指摘しました。そのうえで、「受診には大変な勇 気がいる。七月までにすべての被害者が申請することは不可能。七月末での申請打ち切りは、法の趣旨である『あたう限りの救済』と相容れない」と主張しまし た。
熊本・協立クリニックの池田龍己事務長は、六月二四日の検診に一四〇〇人が申し込んでいることを紹介し、「『家族から止められた』と途中で受診を取りや める人もいる。根深い偏見や苦悩があることを、国は加害者としてどう感じているのか」とただしました。
▼健康調査なぜしない
健康調査・環境調査について環境省は、「(メチル水銀の)汚染・曝露がなくなっているなかで、症状のみを調査しても健康への影響を明らかにできない」との考えを示しました。
これに対し、保団連の野本哲夫・公害環境対策部長(医師)は、健康調査に言及した一九七三年の『環境白書』に触れながら、「被害の広がりは民間の検診で 明らかになっている。しかし環境省は、実態把握のために何もやってこなかった」と批判。「『今は汚染も曝露もないから調査しない』との見解は疫学の世界で は通用しない。重症だけでなく、軽症も含めた水銀汚染の影響調査と究明が世界の要請だ。将来にわたって健康調査を続け、被害が分かれば救済するのが当然の 姿勢だ」と求めました。
不知火患者会関東支部の竹田正雄さんが「まだ娘が嫁に行っていないから手を挙げられない、という人もいる。症状は年をとると出てくる。将来の救済を保障してこそ、『あたう限り』という法の趣旨が生きる」と強調。
関東で検診を行っている東京民医連の小嶋博之さんは、「先日の検診でも、三四人の受診者のうち三三人に水俣病の症状があった。定年退職し勇気を出して受 診した、という人もいた。七月末で締め切るという根拠は崩れている」と指摘しました。
環境省は、「国は法の周知徹底を図る。それぞれの立場でやれることをやっていこうという立場だ」「一定の症状あれば、七月末までに手を挙げていただきたい」と繰り返すにとどまりました。
六月二四日、民医連も参加し熊本・鹿児島で大検診を行います。
(民医連新聞 第1526号 2012年6月18日)
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