相談室日誌 連載350 “もっと早く手をつないでいれば――”と 寺田直美(奈良市)
「入院の予定日に来院せず、今後の対応に困っている」と、病院のSWから支援依頼があり、Aさんと関わるようになりました。
Aさんは公営住宅でひとり暮らしをする生活保護受給者です。胃がんで、手術の必要がありました。本人の理解力に問題があるうえ、親族の協力が得られな かったため、職員が受診に付き添い、手術を受けることを確認しました。
また、Aさんは家賃滞納で裁判手続きが始まることが分かりました。この件で保護課に連絡をとると「家賃滞納については何回か説明をしている。本人の理解 力やお金の使い方に問題があると思っていた。困っている」と、以前から問題は分かっていたようでした。
今後の対応について話し合った結果、手術を優先させ、住宅問題については退院した時点で本人、関係機関と支援体制を整えていくことになりました。
しかし、先に裁判所の出廷命令書が届いていたため、職員が同行することに。当日、「裁判所へ行ったら刑罰をうけるのか」と、不安を募らせたAさんは、興奮状態で裁判所へは行けませんでした。
結果、強制執行となり、数カ月後には退去命令が出ることになってしまいました。そのことで保護課に連絡をすると、Aさんの担当CWは交代、経過が引き継がれていませんでした。
手術の方は…。お兄さんの協力で入院したものの、手術当日無断外出し、自宅に戻ってしまいました。主治医から手術が困難と判断され、入院も継続できなく なりました。本人と話すと手術の恐怖感と、病院の閉塞した空間に耐えられなかったようでした。
Aさんは現在も公営住宅で生活しています。手術も受けておらず、住宅の問題も解決していません。理解力に問題のあるAさんのような人への支援の難しさを 感じるとともに、これで良かったのか、という思いがあります。保護課、住宅課などの行政がAさんの理解力や生活状況を把握した時点で、早期に関係機関につ ないでくれていれば、強制退去といった最悪の事態は免れたのではないかと思えてなりません。
(民医連新聞 第1526号 2012年6月18日)
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