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民医連新聞

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フォーカス 私たちの実践 人工呼吸器の患者の災害対策 兵庫・訪問看護STなだ 重症度の高い在宅患者 災害時の態勢づくりは急務

 人工呼吸器の在宅患者さんの災害対策を点検・見直した訪問看護STがあります。他の事業所も巻き込み、地域や行政にも働きかけま した。第一〇回看護・介護活動研究交流集会(二〇一〇年)で兵庫・訪問看護ステーションなだ(姫路医療生協)の森澤有香さん(看護師)が報告しました。

 阪神大震災を経験し、災害時の重症度の高い患者への救護の遅れや、医療機器の備えの少なさが課題となっていました。当STでも重症度の高い利用者が増え、具体的な対応が求められていました。
 そんなとき、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で人工呼吸器を使用しているAさん(五〇代、女性)が「水害もあるし、小さな地震が起きるたびに心配。大きな 災害があったら、私はどうなるの?」と不安を訴えました。これをきっかけに、災害時の対策を調べ、見直すことにしました(下項参照)。

Aさんの対策でとりくんだこと

▼聞き取り調査(利用者の災害時の準備状況、災害への不安、地域の自主防災組織の状況、所管の消防署の対応、電力会社の対応、行政の対応、協力者の有無)
▼避難場所への経路確認と近隣の道路状況確認
▼ハザードマップを活用し、災害時の被害発生状況の想定
▼人工呼吸器バッテリー持続時間と充電器の確認、発電機の有無の確認
▼災害用物品の準備と管理
▼利用者宅でのサービス担当者会議の開催
▼利用者宅からの搬送方法の検討と話し合い、実際の試験搬送

避難経路を歩いてみると

 災害が起きた場合を想定し、どのように避難できるか、Aさんと一緒に実際に自宅を出て試験 搬送をしました。Aさん宅のリクライニング車いすを使用。ベッドから車いすへの移乗、呼吸器やバッテリーを持つ人、車いすを押す人で、最低でも三人必要で した。働いている夫が災害発生時に自宅にいない可能性も高く、すぐにそれだけの人手が集められるか、課題です。
 自宅から道路までは段差があり、夫がスロープを手作りしました。しかし、避難場所の公民館までは、健常者でも歩いて一五分かかる距離があります。あたり は古い住宅が多く、大地震なら、建物の倒壊や道路のひび割れ、がれきの散乱などが考えられました。途中まで実際に搬送してみましたが、スタッフ全員で「震 災時にこの道を搬送するのは困難」と判断しました。
 また、仮に公民館に辿り着いても、そこには緊急時のバッテリーや発電機の備えがないこともわかりました。公民館の職員に要請しましたが、「すぐに設置するのは難しい」との回答でした。
 消防署や行政にも問い合わせました。「個別の対応は考えていない」(消防署)、「特別な対応は検討中」(行政)とのこと。また、電力会社は当初「個別対 応はない」と回答していましたが、後に「電力復旧を優先的に行う」旨の連絡がありました。
 関係機関の「特別な事情を言い始めたらキリがない。優先的に対応することはできない」との姿勢に憤りを感じつつ、現時点で対策がなくても、今後検討するよう求めました。
 地域との関係も確認しました。Aさんは若いこともあり、近所の人たちに病気のことを伝えていませんでした。これを機に民生委員と連絡をとり、災害時の協 力を要請。民生委員は「支援が必要な人は他にもいるので、どこまでできるか分からないが、できるだけ協力したい」との返事でした。地域担当の保健師と話し 合うこともできました。
 医療生協の組合員さんなども含め、さらに地域連携のしくみづくりが必要です。

サービス担当者会議開く

 Aさんに関わるサービス担当者会議も開きました。訪問看護STのほかに、ヘルパーST、入浴サービス事業所、保健所、呼吸器メーカーが参加しました。全員で物品の準備や緊急時の対応を確認しました。
 もっとも心配なのは停電です。七時間持続のバッテリーやアンビューバッグを常時確保しておくこと、発電機がどこにあるかなどを確認しました。
 日中、一番多くの時間を過ごすヘルパーさんからは、「停電が長時間にわたる場合、どうすればいいのか」「物品があっても、いざという時に使えるのか」な ど強い不安が出ました。そこで、当STでAさんに関わる五つのヘルパーステーションすべてで緊急時の呼吸確保の講習を行いました。「実際にやり方を練習で きて安心した」との声が聞かれました。
 主治医は会議に参加できませんでしたが、「災害時でも、病院に来れば受け入れる」と話し、Aさん本人はじめ大きな安心感となりました。ただ遠いのが難点です。

 これは二年前のとりくみですが、東日本大震災の被災地では「停電し、四八時間にわたりアンビューバッグで呼吸を確保した」「吸引器が動かず口で吸引した」などというケースがあったと聞きました。
 すぐには動けない患者さんだからこそ、平時からの態勢づくりが大事だと痛感しています。

(民医連新聞 第1525号 2012年6月4日)