米韓FTAが示したTPP参加の危険性 来日の韓国人医師ら語る ウ・ソッキュン医師の話
全日本民医連は、TPP(環太平洋連携協定)交渉への日本の参加を、農・水産業や消費者など広い分野の人たちとともに反対してい ます。TPPで医療がどんな影響を受けるのか。その「先駆け」として韓国ですすんでいる米韓自由貿易協定(FTA)の問題をみれば、明らかです。韓国で同 協定阻止の運動をしているウ・ソッキュン医師(健康権実現のための保健医療団体連合政策室長)と、ピョン・ヘジンさん(同団体企画局長)が、来日して行っ た報告を紹介します。(木下直子記者)
二〇〇六年に米韓FTAが持ち上がった時、韓国国民の多くが「この協定でアメリカへの輸出 がすすみ、打撃は農業分野だけ」という政府の説明を信じました。しかしいまや賛成世論は少数です。経済民主主義の制約や、国家の主権の侵害などの問題が反 対運動で浸透したのです。医療への影響も憂慮されています。
◇薬価や機器の値上げ
まず、あげられるのが薬や医療機器の価格の高騰です。たとえば「認可―特許連携制度」条項の問題です。特許権を持った製薬企業がジェネリック製薬企業に「特許侵害」を申し立てれば、その医薬品の販売を停止できるという制度です。
通常、製品の市販を許可する基準は、効用と安全性のみで、特許紛争は市販後に企業間で行うものです。それが、医薬品の市販については許可と特許を連動さ せる。特許権を持つ企業は、訴訟費用さえ負担すれば、ジェネリックの販売停止期間中、独占的に利益を得られるというしくみです。
アメリカとFTAを結んだカナダ、オーストラリア、シンガポールなどで導入されていますが、ヨーロッパでは持ち込ませていません。
また、薬価の決定や保険適用の可否といった政府の権限が弱まる恐れも。政府や関係機関が関与できない「独立的検討機構」の設置条項があるためです。アメリカとの貿易協定に医薬品制度が盛り込まれているのは、オーストラリアに次いで二例目です。
オーストラリアでは「特許医薬品と医療器機に対して適切な価格を認める」という条項があったため、協定締結の三年後に薬価を引き上げる制度が導入されま した。「公共医薬費価格制度の崩壊」といわれました。続いて医療機器も独立的検討機構が扱うようになり、健康保険適用のうち、診療費以外のすべてにFTA が関わるようになっています。
◇営利病院・民間保険
営利病院の許諾を永続化する条項も入りました。アメリカのFTAには「逆進防止条項」があるため、韓国政府側が廃止できません。
民間医療保険に対する規制も不可能に。韓国政府が民間医療保険商品に対して消費者保護をとることが難しくなりました。
◇禁煙政策にまで口出し!
禁煙政策にまで影響があります。企業が「権利が侵害された」と判断すれば、国際仲裁機構に訴えることができるISD(投資家国家仲裁制度)のためです。仲裁に付された国家は拒否できず、その決定に背けば貿易報復の対象になります。
カナダ政府がすすめていた禁煙政策は、タバコ会社にISDを持ち出されてダメになりました。現在もオーストラリア政府の禁煙政策をフィリップモリス社がISDに付しています。
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韓国政府はこれまで、医療は米韓FTAの例外としてきました。でも、オーストラリアやカナダをみればそうではありません。米韓FTAは韓国の医療を商業化・営利化させる協定です。
TPPのアメリカの提案をみると、米韓FTAよりもひどい条項が盛り込まれていますから、参加を許してはいけないと思います。
阻止の運動は「99%」のために
ピョン・ヘジンさんの話
TPPは、九九%の庶民が犠牲になる制度です。福祉国家への道を初めから遮断するものだと思います。
協定の文書は非公開ですし、公開されても市民には難解です。TPP参加を阻止するために、医療や法律の専門家や各分野に明るい人たちが影響を分かりやすく伝える必要があります。
韓国でFTAの議論が持ち込まれた当初、反対世論は三〇%に過ぎませんでした。私の団体では、「二人でも三人でも集まれば、米韓FTAの問題点を話しに 行くから呼んでほしい」と、呼びかけて運動しました。結果、七〇%がFTA反対に変わっています。残念ながら国会を通過しましたが、運動を続けています。
皆さんのTPP反対運動も同じだと思います。環太平洋の人々が運動を見守っています。
(民医連新聞 第1525号 2012年6月4日)
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