40歳以下の2型糖尿病患者の臨床像と生活背景に関する調査 松本久全日本民医連前学術委員長に聞く 健康権保障の実践 社会と疾病のあり方問う
全日本民医連は二〇一二~一三年にかけて「四〇歳以下の2型糖尿病患者の臨床像と生活背景に関する調査」にとりくみます。社会経 済的格差が糖尿病の悪化と進行に及ぼす影響について検証するのが目的です(別項参照)。四月二一日に東京で開いた説明会には医師一四人を含む約九〇人が参 加。三三県連九一事業所が登録し、対象患者数は約一七〇〇人にのぼっています(五月八日現在)。調査班のメンバーで、全日本民医連学術委員会前委員長の松 本久医師(熊本・くわみず病院)に聞きました。(丸山聡子記者)
きっかけは、石川・城北診療所の莇也寸志医師が発信した四〇歳以下の糖尿病患者二六例の調 査です。(1)家族歴を背景に高度肥満をともなう、(2)およそ三分の一の症例で糖尿病性網膜症や腎症をすでに発症、(3)社会格差と肥満・2型糖尿病と の関連が示唆される、という結果でした。
「自分の健康は自分で守れ」という新自由主義的な「医療改革」がすすんでいますが、その結果、それすらできない人たちが増えています。
医療にかかれぬ若年層
私も最近、印象的なケースを二例診ました。一人は三〇代男性で糖尿病ですが、仕事が忙しく て定期受診できず、主治医がいません。受診のたびHbA1cが一〇~七・六と高い。東北から沖縄まで長期出張が頻繁にあり、服薬もきちんとできません。 「非正規の人も大変だけど、正規も大変。過労死寸前」と本人も話していました。
もう一人は国保加入のタクシー運転手です。血糖値が五〇〇を超えており、入院が必要な状態でしたが「自分が働かないと家賃も払えない」と入院を拒んでい ます。支払いの遅れていた国保料を封筒に入れて持っていました。
こうした事例はどこの現場でもあるでしょう。もはや本人への個別指導だけでは解決できません。医療費・薬剤費の高い糖尿病は継続治療が難しく、「患者さ んの治療にじっくりとりくみたい」と医療者が思っていても、難しいのが現実です。
「健康は自己責任」か
「診療を受けて、薬をきちんと飲んで規則正しく生活する」ことができない人をどうするのか。「働いて生活する」という社会の基盤がしっかりしていなければ、人々が健康に暮らすことはできないのです。
個別指導のあり方や投薬での介入の仕方などの研究・実践はありますが、生活や労働との関連、社会のあり方の影響などの調査はほとんどありません。なら ば、私たちが臨床現場で実感していることを客観的事実で明らかにし、医療のあり方に問題提起できるものをまとめようと考えました。
二月に京都・吉祥院病院が予備的に行った調査でも、一〇例中全員が肥満で発症年齢も低く、罹病期間が二〇年になるケースもありました。それにもかかわら ず中断・無治療が多く、合併症は一〇例中六例に見られました。全国の民医連の力を集め、人も予算も割いて、ひとつの事業所だけでは明らかにできない事実を 浮き彫りにしたい。一年目の調査を終えた時点で中間報告も出す予定です。
こうした医療活動は民医連が原点として大事にしてきたことです。今回の調査には私たちの予想を大幅に超える参加登録がありました。背景に現場の医療者の 苦悩・葛藤があると感じています。気になりながらも、多忙さゆえにかかわり切れていない患者さんと向き合い、多職種のチームの力でとりくんでほしいと思い ます。
今後の慢性疾患医療のあり方を問い、改善につながる調査であると確信しています。総会方針で提起された健康権保障の実践です。
参加登録はこれからでも可能です。問い合わせは全日本民医連医療部まで。
調査の概要
調査対象:2011年10月1日~2012年3月31日に受診し、2型糖尿病の診断がついている患者で、3月31日現在で20歳以上40歳以下の人
調査期間:2012年6~7月の受診時に断面調査をし、1年後に追跡の断面調査を実施
調査の詳細:2012年6~7月の断面調査時に医療機関用と患者本人用の調査票に記入。1年後に医療機関の調査票に記入。それぞれ8月末までに全日本民医連の入力用Webシステムに入力。
調査項目:
【医療機関用】 初診区分、合併症、治療方法、健康保険の種別、無料低額診療の活用など
【患者本人用】 家族歴、診断のきっかけ、受診状況と受診できない理由、健診の受診状況、運動習慣、食事・睡眠、職歴、勤務形態、喫煙、飲酒、家族構成、学歴、経済状況、受診への負担感など
(医療従事者が問診しながら記入するケースも相当数予想される)
(民医連新聞 第1524号 2012年5月21日)