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民医連新聞

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40回総会での記念講演から 神戸女学院大学 石川康宏教授 資本の論理乗り越え人間の復興を

 定期総会では、神戸女学院大学の石川康宏教授が「人間の復興か、資本の論理か」と題し記念講演しました。一部を紹介します。

 経済権力が政治を買収している日本資本主義の構造をつかみ、それを変えていくために学ぼう、というのが私の話です。

財界が政治を「買収」

 二〇〇九年の政権交代から二年半、いまや民主党の支持率は下がり、国民の過半数が「支持政党なし」層です。ここに至るまでを見てみましょう。
 九〇年代後半に自民党の支持率が急落し、日本の財界は「自民党が倒れても政治は変わらない」ための二大政党づくりに乗り出します。〇三年に今の民主党が できてから、日本経団連は自民・民主両党に「通信簿」をつけ始めました。経団連が毎年発表する約一〇項目の優先政策事項への態度を評価するものです。
 なお、経団連とは、日本の大企業一六〇三社が参加する組織です。使命に「『民』主導、自立型の経済社会を作る」ことを掲げています。「民」は民間大企業のことで「自立」するのは国民。「国民は自己責任で生きろ」という意味です。
 組織内には企業会計、経済法規、社会保障などといった八〇近い委員会があり、政府に向け次々と意見書を発表しています。重要文書は大臣に手渡しです。
 しかし意見は反映されない可能性もありますから、一方で札束で政治家の頬を叩く。企業団体献金です。先の「通信簿」で「自民にこれくらい、民主にこれくらい」と配分するのです。
 そして〇九年、財界からみれば自民と民主にはまだ差があって、機の熟していない段階でしたが、自民党の政治に我慢ならなくなった国民が政権交代させてしまいました。
 民主党も国民の怒りを追い風にすべく自民党を批判し、マニフェストに「コンクリートから人へ」「基地は県外」「消費税増税NO」などを掲げました。
 ところがその後、財界やアメリカがこの政策に強烈に巻き返しをはかり、鳩山政権は右往左往、何もできず沈没しました。次の菅内閣は旧自民党路線に強く引き戻されました。そして、いま「マニフェストは無かったことにする」という野田内閣に移っています。
 そのもとで国民は、再び政治に不満を募らせています。財界の二大政党制の企みは見事失敗したのです。
 でも、政治権力を買収し、マスコミも動員できる財界が、なぜ思い通りにできないのか。それは「政治」が権力者だけで動かせるものではなく、権力者と国民の争いの中で動いていくものだからです。これを私が研究しているマルクスは「階級闘争」と呼びました。
 さてこの二大政党制の瀬戸際で、国民の不満を反動的にすくい取ろうとする「維新の会」のような動きも出てきます。この会と関西財界は実は深い関係です。彼らは、財界が望むがなかなかすすまない「道州制」を地方から行おうという流れに乗った勢力です。
 道州制とは、一都一道二府四三県を消し、全国を一〇位に分けるというもの。関西なら、大阪、京都、兵庫、滋賀、奈良、和歌山がなくなり、それらの予算を すべて関西州でまとめ、大型開発や特区で財界に投入する。「構造改革で国の予算を大企業に注ぎ込むことはかなりすすんだ、だが地方予算の注入は十分でない から仕上げよう」という狙いです。
 みんなの党などといった最近元気のいい勢力は皆、この道州制推進という共通課題を持っているのです。

社会を見抜ける市民に

 たまたま「財界いいなり」の政治家が大臣になったのではなく、財界が日本の最高権力者なのです。「原発は安全神話で騙せばいい。消費税増税も公務員削減 も財政赤字だと言えば国民は納得する」と、国を動かそうとしている。それを多くの国民が見抜けるようにならないといけませんね。
 よりよい社会づくりの土台は、国民がどれだけ賢くなるかにかかっています。「橋下はこう言うが、本当はこうだな」と、市民が見抜ければ、橋下市長など誕生しないのです。だがいまは見抜けない水準にある。
 一方で大切な模索もあります。脱原発にとりくんでいる若い人たちが「政治はおかしいけど、問題はその背後の大企業ではないか?」と問題意識を持ち始めていることです。
 そうして彼らは諦めたようなマスメディアの報道の中で、信じられる情報を自分で探しています。「社会を変えるために自分に何ができるか」と、一生懸命探し、納得したものはネットで発信し、色んなところで響き合っています。
 こういう局面で私たちがどうたたかうかが問われています。まず自分の政治的教養を引き上げましょう。「国民は分からんのや」と言っている本人も分かって いなければどうしようもない。政治や経済の表面でなく、根本をつかむために社会科学の基礎を学びましょう。いまの日本をみると、マルクスの資本主義分析の 深さを実感します。「利潤追求は生産力を発展させるが、貧困や環境問題など様々な害悪を生み、それを乗り越えずにおれない人間の運動を生む」んだと。リー マンショック後、世界的なマルクスブームです。「資本主義はこのままでいいのか」に関心が向かい始めているのです。
 もう一つ、個人で情報や意見を発信する努力をしましょう。Twitter、Facebook、ブログ…若者たちの変化は、圧倒的にこの領域の情報を通じて起こっています。発信することで、自分の頭でモノを考える力も身についていきます。

(民医連新聞 第1521号 2012年4月2日)